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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜>掲示板

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  • from: エリスさん

    2012年01月27日 11時49分55秒

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    「夢のまたユメ・43」
     次の日の日曜日も、百合香は早番で出勤していた。
     早番は休憩時間が早めで、10時半にもう昼食を取らなければならないことが多い。その日は百合香とナミが同じ時間に休憩を取ることになっていた。
     事務所に上がってタイムカードを押した百合香は、すぐには休憩室に行かず、先ず上司の野中マネージャーを探した。
     野中マネージャーは映写室へとつながるドアから戻ってきた。
     「あっ、野中さん! 探しておりました」
     「え? なに、どうしたの?」
     野中は上司なのに気さくな話し方をするのが「売り」である。
     「お願いしたいことがありまして。来週のシフトって、もう作成してしまいましたか?」
     「いや、まだだけど。なに? 変更があるの?」
     「はい、来週の土曜日なんですが……」
     百合香は野中の後にくっついて、一緒に野中のデスクへ向かった。そして野中は、来週のフロアメンバーの出勤希望表をパソコンに表示させた。
     「来週の土曜日……1月22日ね。この日をどうしたいの?」
     「なんとかお休みに……」
     「ええ〜〜!? だってこの日は、ゴセイジャーVSシンケンジャーの初日だよ?」
     シネマ・ファンタジアの客層は、大人も子供もヒーロー物が大好きである。仮面ライダーを上映すれば、一番大きなシアターがほぼ満席となるほどで、同じ配給会社・東映のスーパー戦隊シリーズ「天装戦隊ゴセイジャーVSシンケンジャー エピックON銀幕」もそれなりに集客数があることは予想される。しかも……。
     「二日目の日曜日にはイベントが入ってるしなァ……」
     プロのスーツアクターがゴセイレッドに扮して、映画を見に来てくれた子供たちとクイズ大会をするイベントがあるのである。
     「日曜日は出勤しますので。土曜日だけはどうしても外せない用事が出来てしまったんです」
     「う〜ん……どんな用事か教えてもらっていい?」
     「はい、実は……先方の親御さんにご挨拶を……」
     「先方の親御さん?」
     野中マネージャーが言った途端、その部屋にいたマネージャーたちとナミが「ええ!?!?」と驚愕の声を上げた。
     「宝生さん、結婚するの?」
     「あっいや……まだ分かりませんが」
     「ええ、でもでも!」と大原マネージャーが駆け寄ってきた。「先方の親御さんにご挨拶って、そうゆうことでしょ?」
     「まあ、気に入っていただけたら……」
     「気に入ってもらえるわよ! 宝生さんなら! 野中さん、これは絶対お休みさせてあげるべきよ。こうゆう話は先延ばしにしない方がいいわ」
     すると支配人まで立ち上がって、咳払いした。
     「ああ、野中君。まあ、宝生さんはいつも忙しい日は出勤してもらっているし、一日ぐらい何とかしてあげてもいいのじゃないかね」
     「はい、自分もそう思います。じゃあ、宝生さん。土曜日はお休みにするから、日曜日のイベントは宝生さんの担当にするよ。頑張ってね」
     「はい、ありがとうございます」
     百合香はマネージャーたちにお辞儀をして、休憩室に入っていった。
     そして大原は自分のデスクに戻って……隣のデスクの、ピクリッとも動かなくなった榊田玲御マネージャーを見つけて、目の前にひらひらと手を振って見せた。それでも反応がないので、耳たぶを引っ張ってみると、ようやく痛がって我に返った。
     「どうしたのよ、レオちゃん」
     「いや……宝生さんに彼氏がいることも知らなかったんで」
     「それがショックだったの?」
     「……みたいです」
     「あらまあ(^.^) お可哀想に」
     「どうしてですか?」
     「もう……ショック受けてるってことは、そうゆうことじゃないの。鈍いわね、レオちゃんは」
     「はあ……」
     そこで支配人がまた咳ばらいをした。
     「そこの二人、私語は慎むように」
     なので大原も榊田も「すみません」と頭を下げた。
    こんなやり取りがあったことなど気付かずに、百合香はお弁当のサンドイッチを食べ始めていた。
     「いつの間に、そこまで話が進んだんです?」
     と、ナミが聞くので、
     「ん? 今朝、急に決まったのよ」
     「今朝?」
     「うん。昨夜は翔太がうちに泊まりに来ててね……」
     「お兄さんは留守だったんですか?」
     「え? ちゃんと帰ってきてたけど?」
     「お兄さんいたのに泊まったんだ(-_-;) 大胆な」
     「そう?」
     「それで、今朝なにがあったんですか?」
     「うん……翔太に朝ご飯をご馳走して、送り出す時にね……」
     ――翔太は玄関を出てから、振り向いて言った。
     「今月中に……出来れば土曜日か日曜日に、うちに来てくれないかな」
     「うちって、翔太の家に?」
     「そう。家族に会ってほしいんだけど……」
     「え!? ご家族に?」
     「うん。俺の結婚相手として」
     「……………………………え???」
     突然玄関でプロポーズされて、百合香は混乱してしまった。
     「結婚してくれるだろ? 俺と」
     「……うん……私でいいの?」
     「もちろん! ただ、両親に承知してもらうには、そのォ……」
     翔太が口を濁した理由を、ナミはすぐに感じ取った。
     「歳が離れてることが問題なんですね」
     ナミが言ったので、百合香は苦笑いをした。
     「やっぱり分かる?」
     「来月――二月って言ったら、リリィさんの誕生日があるじゃないですか」
     百合香の誕生日は二月四日だった。
     「まだ三十代の時に両親に紹介したいって腹でしょ?」
     「そういうこと。来月になったら四十歳になっちゃうものね」
     「失礼ですよ。リリィさんの歳のこと気にして、そういうこと言い出すなんて」
     「そんなこと言わないの。結婚って、当人だけの問題じゃないんだから。家と家とのつながりだから、世間体とかもあるし、年齢はもちろん、私の育ちとか、身辺調査だってそのうち始まるのよ」
     「なんですか、それ!」
     ナミは今時の若者だから、昔ながら縁談のしきたり等わかるはずもなかった。
     「そのうちあなたも分かるようになるから。それより、あなたの方はどうなのよ。小田切さんと」
     話題を変えたかったので、ついナミの彼女のことを出してしまったが……ナミはちょっと不機嫌そうな顔をした(その前から不機嫌ぽかったが)。
     「桂子(けいこ)ですか?……まあ、それなりに」
     「何? なんかあったの?」
     「ちょっと……最近忙しかったんで、仕事の合間にしか会えなかったんですけど……」
     「ははァ〜ん、彼女が寂しがってるんでしょう?」
     「って言うか、昨日、キレられました」
     「まあ、無理もないわ。女っていうのは、好きな人とは毎日でも会いたいものだもの」
     「でも、こっちも忙しいし……小説書かないと、締切近いし」
     「文学賞のね。だったら、夕ご飯作りに来てもらうとか、デートとまではいかなくても、会える時間を作ってあげたら?」
     「それは一度そうしてあげたことがあって……その後、泊まろうとするから、まだ書き続けたいのに困るんで、それからは一度も」
     「ああ、そう……」
     これはまた、小田切さんから嫌味の一つも言われそうね、私が……と、百合香が思っていると、ナミは言った。
     「大丈夫です。もう、リリィさんに酷いことは言わせませんから。約束させてあります」
     「え!?」
     「聞いてます、桂子がリリィさんを馬鹿にしたこと。だから、二度とそんなことしたら絶縁するって約束してあるんです」
     「そうだったの?」
     「桂子は誤解してるんです。俺がリリィさんに懐いてるのは、そうゆう恋愛ごととは別次元だって言うのに」
     翔太と付き合っていない時に言われていたら、かなり辛い台詞である(^_^;)
     そのうちにジョージが休憩室に入ってきた。
     「二人ともまだ食ってるの? 後十五分しかないぞ(ジョージは十五分ずらしで休憩を取りに来た)」
     「そうだった! 急いで、ナミ!」
     「ハ〜イ……」
     ナミはすっかり冷めてしまったカップ麺を食べるのだった。

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  • from: エリスさん

    2012年01月20日 10時46分58秒

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    「夢のまたユメ・42」
     百合香は布団から起きだすと、ティッシュを2,3枚掴んで口元へ持っていき、咳き込んだ――そうすることで、喉に入り込んだ姫蝶の毛を吐き出そうとするのだが……。
     「リリィ、大丈夫?」
     と、翔太は傍へ寄ろうとした。すると、姫蝶が小さい体で立ちふさがって、翔太に向かって牙をむき出しにして威嚇の声を上げた。
     「え!?」
     と驚いている翔太を、恭一郎は後ろへ下がらせた。
     「近づくな、ああなったキィの傍には。何のためらいもなく噛みついてくるぞ」
     恭一郎はそう言いながら、右の手の甲の噛み傷を見せた。
     「え? どうして?」
     「百合香を守ってるんだ。どうしてこうなったかは分からなくても、百合香が危険なのは分かるから、百合香に近づくものはみんな敵とみなして牙をむいてくる」
     「じゃあ、どうするんですか!」
     「百合香がなんとかするしかない。百合香! 立てるな? 構わないからそのまま来い!」
     百合香の寝間着は翔太が着ているから、百合香は裸のままだった。しかしそんなことは言っていられない。百合香は咳き込んだまま立ち上がると、走ってバスルームへと行った。その後を姫蝶もついて行ったので、その隙に恭一郎は百合香の部屋へ入って、タンスからバスタオルを出した。
     洗面所で、百合香はうがい薬を使ってうがいを始めた。その足もとには姫蝶が心配そうに百合香を見上げながら立っている。
     翔太は何もすることができずに、それらの光景を見ていることしかできなかった。その時、外からガラガラっという音が聞こえてくるのに気付いた。
     “ガラガラ、バタンッ ガラガラ、バタンッ”
     何の音かすぐに分かった。隣家のお爺さんが自分の家の雨戸を開けている音だった。
     台所の時計はまだ11時45分を指してる。どう考えても夜だというのに……。
     「馬鹿な爺さんだ」と恭一郎が言った。「朝だと勘違いしてやがる」
     「それじゃ、本当にこの家の物音で起きてるんですか?」
     「百合香から聞いたか? そうなんだ、迷惑なことに」
     そうこうしているうちに、百合香はうがいを終えて、息を切らせながらも、だんだんと落ち着いてきているのが分かるようになった。
     百合香が壁のタオル掛けにかけてあるタオルで口を拭きはじめたので、恭一郎は「取れたか?」と声をかけた。
     百合香はタオルで口を押えたまま頷いた。
     「そうか。じゃあ、キィを頼むぞ」
     「……うん」
     百合香はタオルを洗面台に置くと、しゃがみこんで姫蝶を抱き上げた。
     「ハイ、キィちゃん。お部屋戻るよ」
     「みぃ……」
     「うん、もう大丈夫」
     百合香は姫蝶を猫部屋に連れて行き、猫ゲージ(プラスチック製の檻)の中へ入れて、扉を閉めた。――姫蝶はその中にある猫ベッドの中に入って、丸くなった。
     猫ゲージの中に入ってしまえば、もう手出しはできない。恭一郎はようやくバスタオルを広げながら百合香の方へ近寄り、肩へ掛けてあげた――ちょうどその時、百合香が気を失ったので、恭一郎が抱き留める形になった。
     「このまま運ぶよ、翔太君」
     「あっ、ハイ!」
     恭一郎が百合香をお姫様抱っこで連れて行き、翔太が掛布団をめくって、恭一郎が百合香を横たわらせたら、また翔太が掛布団を掛けてあげた。その際、肩や胸に飛び散っていた水をバスタオルで拭くのも忘れなかった。
     「もう大丈夫だ、呼吸も落ち着いている」
     「はい……すみません、俺のせいです。俺がつまずいて、猫部屋を開けてしまったから……」
     「いや、これは妹の不注意だ。ちゃんとキィを猫ゲージに入れないで、部屋に連れて行っただけで済ませてしまったんだろう。甘えっこのキィがお姉ちゃんと別の部屋で寝かせられたら、どうなるか。想像できなかったはずはないのに」
     「でも……」
     「それより、すっかり冷えてしまったな」
     と恭一郎は立ち上がった。「来いよ。二階で温かいものでも飲もう」
     二階の仏間は石油ストーブとエアコンが両方備わっていて、恭一郎は翔太を中へ招き入れると、先ずリモコンでエアコンのスイッチを入れ、それからストーブを点けた。
     ストーブの上にはやかんが置いてあり、恭一郎が風呂に入る直前まで温まっていたのだろう、しばらくするとやかんの湯が沸騰しはじめて、注ぎ口から湯気を吹き出した。
     「よし、もういいな」
     恭一郎はストーブの火を消すと、やかんを持ち上げて、前もって置いてあったお膳のティーポットにお湯を注いだ。ティーポットの中にはすでにティーパックも入っていた。そして出来上がったお茶を、二人分のマグカップに注いで、一つを翔太に差し出した。
     「口に合うといいけど」
     「いただきます……なんのお茶ですか? これ」
     「どくだみ茶だ」
     「どくだみですか!?」
     「そんなに飲みにくくはないだろ?」
     「はい、おいしいです。いや、でもちょっと意外です」
     「そうかい?」
     「ええ、リリィが紅茶に凝ってるので、お兄さんもそっち方面かと思ってました」
     「いや、それは間違いではないよ。俺も紅茶は好きだ。でもそろそろ、健康にも気を付けないといけない歳になったんでね」
     「え? あっ、そっか……」
     兄妹そろってまったくそう見えないので忘れてしまいがちだが、百合香が三十九歳ということは、兄の恭一郎は四十一歳になっているのである。
     「その若さの秘訣はなんなんですか?」
     「自分の趣味に没頭することかな……自分たちにも良くわからないんだ」
     隣家のお爺さんが雨戸を閉めはじめたのは、そんな会話をしていた時だった。
     「ようやく夜中だと気づいたか(-_-) 前にも百合香が夜中に咳き込んだことがあって、まったく同じことをしてたんだよ」
     「おちおちクシャミもできませんね(-_-;) まさか盗聴とかされてませんよね?」
     「それは大丈夫だと思うけど、昭和初期生まれの爺さんだから、そんな器用なことができるかどうか……まあ、こっちが聞かれちゃ困るようなことをしていなければ、済むことなんだけど」
     「ハア……」
     思いっきりしちゃいましたけど……と翔太は思ったが、口に出すのは止めておいた。
     「それより、あの……」と翔太は話題を変えた。「リリィのあの発作ですけど、もしかして猫アレルギーですか?」
     「その可能性はあるんだけど、はっきりと調べていないんだ」
     「どうしてですか?」
     「もし猫アレルギーと診断されたら、キィを処分しなければならなくなるだろ?」
     百合香の発作が起こり始めたのは、姫蝶を飼いはじめた二か月後ぐらいからだった。病院に行って診てもらったところ、症状は喘息に似ているが、突発的で、短時間で治ってしまうところから、別の病気ではないかと判断された。なんらかのアレルギーの可能性もあるので、精密検査を受けるように言われたのだが、百合香はそれっきり通院をやめてしまった。
     「百合香は自分の体よりも、キィの命を尊重したんだ。それだけ、百合香はキィが大切だったんだよ。なんせ、死んだ母の名前を付けたぐらいだから」
     「え!?」
     翔太は聞いていた話と違うことを言われてびっくりした。
     「織田信長の奥方の、帰蝶の方から取ったんじゃないんですか?」
     「ベースはそれだけど、でも一番重要なのは“姫”の字なんだ。キィは母が死んだ年にうちに来た。母を失って、人と接するのを怖がっていた百合香には、あの子は支えになったんだよ。だから、母の名前――沙姫から、一字を取って命名したのさ」
     「……そうだったんですか……」
     だから、百合香と姫蝶の絆はあんなに深いんだ……と、翔太は思いながら百合香の部屋に戻った。
     部屋に入ると、百合香が起きだして寝間着を着ようとしていたところだった――紺地に白い小さな花がいっぱい描かれている。
     「ああ、寝間着もう一枚あったのか」
     と、翔太が声を掛けると、
     「お母さんの……裸だと寒いから……」
     と、百合香は目をこすりながら答えた。その様子を見て、
     『あれ? 寝ぼけてる?』と翔太は思った。
     「お母さんの、着てもいいでしょ? 私、この柄、好き……」
     「うん、似合ってるよ」
     「似合う?」
     百合香はそういうと、エヘッと笑いながら首をかしげた。その仕草を見て、
     『ね、寝ぼけてるリリィ、可愛い〜!』
     と、翔太は思った。
     「ほら、もう遅いから、寝よう」
     「うん、寝る……」
     百合香はそう言いながら、翔太に抱きついてくる。翔太はそのまま、百合香を横たわらせて、自分も横になって掛布団をかけた。
     「あったかい……」
     「うん、あったかいね。お休み、リリィ」
     「おやすみ…‥」
     百合香はすぐに寝付いてしまった。
     『いろいろと大変なんだな……』
     翔太もそんなことを考えながら、眠りについた。

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  • from: エリスさん

    2012年01月13日 10時33分56秒

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    「夢のまたユメ・41」
     「そんな感じで、今日は相談に乗りまくりだったの」
     百合香は言葉で言いながらパソコンに打ち込んでいた――早い話がネット仲間のルーシーとチャットをしていたのである。
     「ユリアスさんったら頼りにされてるのね(*^。^*) 私もそのうち相談に乗ってもらおうかな」
     という返事が戻ってきたので、
     「勘弁してよ(^_^;) とは言え、ルーシーさんも何か悩み事があるの?」
     「あるよ。たぶん、ユリアスさんなら理解してもらえると思うけど……今日はまだいいや」
     「あらら」と百合香は独り言を言った(パソコンには打たずに)。「ちょっと気になるけど、追究しない方がいいのかな?」
     「ねェ〜リリィ〜」
     と、甘えた声を出したのは、炬燵の向かい側に座っていた翔太だった。「まだ終わんないの〜」
     「ハイハイ(^.^) もうすぐ終わるから待ってて」
     百合香がチャットをしている間、猫じゃらしで姫蝶と遊んでいた――いや、遊んでもらおうとしていた翔太だったが、多少は慣れたとは言え基本男嫌いの姫蝶は、ちょっとだけ猫じゃらしに手を伸ばしても、全然乗ってこないので、翔太もつまらなくなってしまっていたのだった。
     「それじゃまた来週チャットしようね。バイバイ(^.^)/~~~」
     百合香はそう入力すると、チャットを終了した。
     「ハイ、お待たせショウ……」
     翔太、と言おうとしたとき、メールが届いた。
     「あれ? 誰かな」
     百合香がメールを開いていると、
     「ええ! まだ待つのォ」
     「ちょっと待って……あっ、ナミからだ」
     「ナミって、あの男にしては可愛い顔した奴?」
     「そう。あの子も小説を書いていて、作品を添削してほしいって頼まれてるのよ」
     百合香はメールで送られてきたナミの小説を、マウスでページを進ませながら軽く読みだした。
     このままだとまた待ちぼうけにされてしまう……そう思った翔太は、百合香の背後に回って、彼女の右耳に軽く噛みついた。
     「やだもう、痛いでしょ(^.^)」
     「俺のこと待たせるから、お仕置きしたの。女の子とのチャットは待っててあげられるけど、男からのメールなんか後にしろよ」
     「あら、焼きもち?」
     「焼きもちだよ。悪いかよ」
     翔太は、今度は首筋に口づけてきた。
     「ああん、もう……」
     百合香は後ろ手に翔太の頭を撫でてから、振り向いて、相手の唇にキスをした。
     「先にお風呂に入ってきて」
     「その間にメールを読み切ろうっての?」
     「違うわよ」
     百合香はメールを閉じると、パソコンをシャットダウンした。
     「お布団を敷いておくから、先にお風呂に入ってきて」
     「うん、分かった」
     翔太が素直にバスルームに向かったので、百合香は姫蝶を抱き上げた。
     「ハイ、キィちゃん! お部屋に戻ろうね」
     「みにゃあ〜ん!」
     「だァめ、戻るのよ」
     百合香は姫蝶を隣室へ連れて行くと、彼女のベッドの上に下した。
     「今日は一人で寝てね」
     「みにゃあ〜」
     「ごめんね、キィちゃん」
     百合香は姫蝶の頭と首筋を撫でてあげてから、部屋を出て電気を消した。


     「なあ、リリィ」
     「……なァに?」
     「なんで、声出すの我慢してるの?」
     百合香の部屋は宝生家の一階の端にある。まだ兄の恭一郎は帰ってきていないので、家にいるのは百合香と翔太の二人だけである。部屋の向こうは駐車場で、たまに誰かが車を駐車しにくるが、その時だけ気を付ければ憚る必要はないはずなのだが……。
     「お隣のおじさんに聞こえちゃうのよ」
     「おじさん?」
     「年齢的にはおじいさんだけど……私の幼馴染の伯父にあたる人で、一人暮らしなの」
     「隣って、こっち側?」
     翔太は庭へ出る窓に向かって、右側を向いた(左側には姫蝶の部屋がある)。
     「でも、こっち側の家から物音って全然聞こえてこなかったし、だったらこの家からの音も聞こえてないんじゃないの?」
     「そう思うでしょ? ところがね、お隣のおじさん、私の目覚まし時計の音を頼りに起きてるらしくて……」
     「ハァ? (・・?) 」
     「私って曜日によって出勤時間が変わるから、4時に起きたり5時に起きたりしてるんだけど」
     「相変わらず早起きだな」
     「そう、普通の人には早起きのはずなんだけど……目覚ましを鳴らして起きると、その1,2分後にお隣の家の雨戸が全部開く音が聞こえてくるのよ。私が何時に起きようと、絶対同じ時間に」
     「うわっ、気持ち悪い」
     「でしょォ? なんか監視されてるみたいで」
     「でも、雨戸が開く音は、まあ聞こえるとして、隣の家のテレビの音とか、電話の音とか、そういうのは全然聞こえてこないから、普通に考えて、こっちの音も向こうに聞こえていないはずなんだけど……でもそうか、間違いなく目覚まし時計の音は聞こえてるんだから……あっ、でも、目覚ましってのはそもそも大きく鳴るように作られてるものだし……」
     自分とは休日の違う百合香のために、自分が毎週土曜日に泊まりに来よう、と考えていた矢先なだけに、これは大きな問題点だった。
     「大丈夫よ」と、百合香は翔太を抱き寄せた。「私が声を出さなければいいんだから」
     「でも、それじゃリリィが辛いじゃん」
     「そんなことないわよ」と言ってから、百合香は翔太の耳元で囁いた。「一人の時は、いつもそうしてたから」
     途端に翔太は想像してしまい、かなり興奮した。
     「リリィ、そういう時って、俺のこと想像してた!」
     「うん……返事させないで、堪えられないから……」
     「俺と付き合う前も?」
     「そう……よ……」
     甘い声を発しないように堪えている百合香が悩ましげで、余計に翔太の欲望を脹れあがらせていた。
     「いつぐらいから? 俺がリリィに片思いしてた頃は? 烏丸さん相手じゃそういう想像しづらかっただろ(早い話が「あいつは美男じゃないから」と言いたい)」
     「もう……」
     百合香は右腕で翔太の腰を自分に押さえつけ、左腕で翔太の頭を引き寄せて、口づけてから言った。
     「烏丸に片思いしてた頃から、あなたの思いに気付いてからはずっと、あなたを想像してたわ」
     「あっ……」
     百合香の言葉攻めにより、翔太の欲望が解放された……。
     ――体の脈動が落ち着くと、翔太はうつ伏せから仰向けへと寝返りを打った。
     「ズルいよな、リリィは」
     「何が?」
     「だって、つい最近までヴァージンだったはずなのに、実際は百戦錬磨なんだから」
     「遊び人みたいな言い方しないでよ(^_^;) ちょっと女同士の経験があるってだけじゃない」
     「でも、落としどころは完璧じゃん」
     「それは相手があなただから。あなたが喜びそうなことなら分かるの」
     百合香はそう言うと、毛布と掛布団を肩まで引き寄せた。
     「もう寝ましょ。明日も早いから」
     「お兄さん、まだ帰ってこないんだね」
     「兄はいつも11時過ぎよ。だから今のうちに眠っちゃって」
     眠っちゃって……と言われても、翔太がいつも寝る時間よりも早い時間なので、少しだけうっつら――とは来たが、すぐに目が覚めてしまった。
     『喉乾いたなァ……』
     翔太は百合香を起こさないように、ゆっくりと起きだした。が、
     「眠れない?」
     百合香はかなり眠そうな表情で、翔太に言った。
     「うん、喉が乾いて」
     「冷蔵庫に私のお茶があるから……ペットボトルに入ったローズヒップティー……」
     「あの赤いお茶だな」
     翔太は布団から出ると下着と服を着ようとしたので、百合香は腕だけ伸ばして枕元の浴衣(寝間着)を取った。
     「これ着て」
     「ありがとう」
     翔太は蝶の柄が入った百合香の浴衣を羽織って、部屋を出た。その時、お風呂場から出てきた恭一郎と出くわして、驚いた翔太はよろけて隣の部屋のドアにぶつかった。
     「お、お兄さん、お帰りになってたんですか」
     「やあ、来てたのか……ふん……百合香には、君の分の浴衣も用意するように言っておくよ」
     「はい、すみません」
     「妹はもう寝てるんだろ? 君は?」
     「あっあの……喉が渇いてしまって」
     「じゃあ、俺の部屋で一杯飲むかい?」
     「いやあ〜、どうもォ〜……」
     気恥ずかしくて、しどろもどろになっていると、部屋から百合香の声が聞こえてきた。
     「駄目だよ、キィちゃん。お姉ちゃん、喉が……」
     先ほど翔太がぶつかった拍子に猫部屋のドアが開き、百合香の部屋に姫蝶が入ってきてしまっていた。そして、姫蝶が百合香の顔にすり寄ってきたのだった。その結果、
     「ゲホッ、ゲホッ!」
     百合香は咳き込み始めた。
     「リリィ?」
     「しまった。発作か!?」

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  • from: エリスさん

    2012年01月06日 11時40分25秒

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    まだお正月休みをいただいてます

     ブログを読んでくださっている方はご存知だとは思いますが、1月1日から4日まで、地獄の4連勤をこなしたところ、体がボロボロになりました。もう、体中の関節が鈍く痛い。
     小説アップは来週からにさせていただきます。

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