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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2011年08月26日 11時04分27秒

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    「夢のまたユメ・27」



     メイド部屋の室内電話が鳴った。
     それに出たメイド長の香苗(かなえ)は、相手からの用件を聞くと、電話を切って真莉奈に言った。
     「真莉奈さん、お坊ちゃまの所にワインをお運びして」
     「ワイン……ですか?」
     と、真莉奈は聞き返した。そんな物、慶一郎坊ちゃまは部屋に何本も隠し持っている。それはお部屋をお掃除に行くメイド達は誰もが知っているが、あえてご主人様と奥様にはお知らせしていないのだ。お坊ちゃまは未成年とはいえ、かなり大人びた大学生でもあったから。
     「今日からは堂々とお飲みになれるからでしょ」と香苗は言った。「なんせ今日は二十歳のお誕生日。もう隠れてこそこそとなさる必要はないのですもの。とにかくお運びして。わざわざあなたをご指名になったのだから。グラスも二つ持ってきて欲しいって」
     「二つ?」
     「そう、二つ……つまり、そういうことよ」
     「……まあ、お坊ちゃまったら……」
     真莉奈は慶一郎が生まれる前から慶一郎の母・慶子に仕えてきたメイドである。慶一郎にとっては姉のような存在ながら、メイドという立場から今日の誕生パーティーには給仕役としてしか出席できなかった。だからきっと、二人だけで祝ってくれようとしているのだろう。
     真莉奈はワイン倉から慶一郎が気に入ってくれそうなワインを選んで、彼の部屋に運んだ。
     慶一郎はベッドに腰掛けて待っていた。
     「待ってたよ、マリー……ワインはそこに置いて、こっちにおいでよ」
     「あっ……はい」
     真莉奈は言われるままに、氷で冷やしながら持ってきたワインとグラスを、ワゴンに載せたままその場に置いて、慶一郎の方へ行った。
     「あとは何をすれば……」
     「ここに座って」
     と、慶一郎は自分の横のベッドの上を叩いた。
     「そんな、恐れ多い……」
     「いいから!」
     慶一郎は真莉奈の手を取って、引っ張った。勢い余ってベッドに倒れこんだ真莉奈に、慶一郎は覆いかぶさってくる。
     「お坊ちゃま、何を!」
     「ずっと決めていたんだ」
     そういって、慶一郎は利き腕の左手で真莉奈の右頬に触れてきた。
     「大人になったら、マリーを俺の恋人にするって……やっとその時がきた」
     「坊ちゃ……」
     言いかけていた唇を、慶一郎の唇が止める。
     首筋を愛撫されながらのキスは、快感以外の何物でもなく――慶子に愛されている時よりも体が反応していた。
     それでも……。
     「おやめください!」
     真莉奈は慶一郎を撥ね退けた。
     「私は一介のメイドでございます。お坊ちゃまのお相手には相応しくございません」
     「お相手ってなんだよ」と慶一郎は怒ったような顔をした。「その場限りの関係を迫られてると思ってるの? 全然そんなんじゃない! 相応しくないって? 俺がマリーを望んでるのに」
     「私は、お坊ちゃまより十六も年上なんですよ」
     「知ってるよ。それがどうしたっていうんだ。マリーはいつまでも若々しくて、愛らしくて、年齢なんて感じさせないじゃないか」
     「でも……でも私は……」
     慶一郎の気持ちは嬉しい。でも自分はこの気持ちを受け取ることができない。なぜなら……。
     「母さんの愛人だからなんだって言うんだ!」
     慶一郎は叫ぶように言った。
     「それでもマリーが好きなんだ! 子供のころからずっと……だから、大人になったら絶対マリーを母さんから奪い取ってやるって決めていた。母さんが君を抱いているのを見るたびに、その決意を固めて……」
     慶子との情事を見られていた恥ずかしさは当然覚えたが、それよりも、慶一郎の瞳が潤んでいるのを見て、真莉奈は愛しさを覚えた。
     「お坊ちゃま……いいえ、慶一郎様」
     真莉奈は抵抗するための手を離した。
     「私は男性は慶一郎様が初めてでございます。それゆえ、慶一郎様をご満足させられるかどうか分かりません」
     「……そんなこと……」
     慶一郎は涙をぬぐってから言った。
     「君でさえあれば、それだけでいい……」



     ―――と、ここまで読み返した百合香は、ボールペンを手に取った。
     「やっぱり、“慶一郎様にご満足いただけるかどうか”の方が、いいかな……」
     百合香がそう独り言を言いながら書き込んでいると、携帯が鳴った。
     ネット仲間のルーシーから、チャットのお誘いだった。
     「ちょうどいいわ、ルーシーさんの意見を貰おうっと」
     百合香はノートパソコンを開くと、パチッと電源を入れた。

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  • from: エリスさん

    2011年08月12日 11時51分57秒

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    「夢のまたユメ・26」
     百合香は台所で食器を洗い始め、それが済むとお風呂場を掃除し始めた。それも済むと部屋に戻ってきて洗濯物を畳み始め――それも終わった百合香は、翔太の方へ戻ってきて言った。
     「ハイ、全部終わったよ」
     「え?……もう家事終わったの?」
     時計を見ると8時を少し回ったところだった。
     「なんだ、家事で忙しいっていつも言ってたから、もっと時間かかるのかと思ってた」
     「そういう言い訳をして、あまり遅くまで外出しないようにしていたのよ。夜道を歩くのは苦手だし、それに、キィが一人でお留守番しているわけだから。キィとの時間を大事にしたかったの」
     「じゃあ、残りの時間は姫蝶と遊ぶ時間?」
     「ちょっとは遊ぶけど……」
     百合香はこたつの布団をめくって、姫蝶のいる位置を確認した――翔太から一番離れたところにいる。そして百合香に気づくと起き上がって、伸びをしながら歩み寄ってきた。さらに百合香がこたつの中に足を入れると、その膝の上に乗ってゆったりとするのだった。
     「キィはおもちゃで遊んでもらうより、私にピッタリくっついている方が好きなの。だから、キィと一緒に座ったまま出来る事をしているわ。ネット小説の下書きをしたり、ルーシーさんとチャットしたり……」
     百合香はそう言いながら、こたつから少し離れたところに置いてある雑誌の山の、一番上に置いてあったノートを手にとって、翔太に見せた。
     翔太はそれを開いて見ると、
     「うわァ、びっしり……」と、パッと見の感想を言った。
     「いつもより字が雑なのは、走り書きで書いてるんだね」
     「下書きなんてそんなものよ。自分さえ読めればいいんですもの」
     「確かに……あっ、先が書いてある」
     昨日、百合香がネットに載せた小説の続きが書いてあった。それを少し読んだ翔太は……。
     「これ、来週載せるの?」
     「うん……」
     「こんな展開になるの?」
     「大方予想はしていたでしょ? 今、書いている所は、俊介が慶一郎の実施でありながら、どうして養子として引き取られることになったのか――というところだから、過去に何があったのか、それを振り返って書いているの」
     「ヘェ……まァこれで、俊介の母親は真莉奈で間違いなくなったけど……すごい三角関係だな、これ」
     「でしょ?」
     翔太の反応が百合香の望むとおりだったので、百合香は満足げに微笑んだ。翔太は……このシーンを書いた本人が隣にいるので、ちょっと恥ずかしがっていた。
     「これって、この間の俺たちの、ちょっと参考にしてる?」
     「してるわよ。男の人とは、あなたしか経験ないもの」
     「ああ……転んでもただじゃ起きないというか……」
     「その譬えは違うと思う」
     「そうだけど……なんと言ったらいいやら」
     「何も言わなくていいわよ。あなたは、私に経験を積ませてくれればいいから。それが、私の小説の出来にもつながってくるんだし」
     「そうだな。ガラスの仮面で月影先生も似たようなこと言ってたけど……」
     翔太はノートから目を離して、腕時計を見た――先程確認したとおり、8時を少し回ったところだった。
     「今日、お兄さんって何時に帰ってくるの?」
     「10時過ぎには帰ってくるわよ。いつも私が寝てから帰ってくるから」
     「10時か……十分時間はあるな……」
     翔太はノートを閉じ、こたつの上に置くと、百合香の目を見つめた。
     「翔太……?」
     「だめ……?」
     「……ううん、だめじゃないよ」
     「リリィ……」
     二人はゆっくりと近づき、互いに目を閉じた時だった。
     「イテッ!」と翔太が声を上げた。
     「え? なに?」
     百合香は目を開き――翔太が痛がる前に、膝の上の姫蝶が動いたことを思い出した。すぐにこたつの中を見てみると、案の定、姫蝶が翔太の脛(すね)に右前足を伸ばし、爪を立てていた。
     「こら! キィ!」と百合香が怒ったので前足は引っ込めたものの、まだ警戒しているらしく、いつでも飛びかかれる態勢を取っていた。
     「いや、いいよ。怒らないで」
     翔太はそう言うと、こたつから足を出して、脛をこすった。
     「ごめんなさい、翔太。足、見せて」
     「いや、大丈夫……今日は俺も突然押しかけたんだし、姫蝶が怒っても無理ないし……それに、リリィがまだ“痛い”かもしれないし」
     「ええっと……」
     そう言われても、こればかりは百合香にも分からない。女同士の経験はあっても、その場合、体内は傷つかないものだから。
     「分かんないだろ? リリィにも。俺も純潔の女の子を破瓜(はか)したのは初めてだから」
     「また古い言い回しをするわね……でも、そうだったの」
     「そうなんだよ。俺が今まで付き合ってきた女って、手練手管ばっかりでさ」
     つまりそうやって経験値を上げてきたと――と、百合香は思ったが、口に出すのはやめた。
     「今日は帰るよ……次はいつ会える?」
     「翔太のお正月休みって、いつから?」
     「29日が仕事納めだから、30日から1月4日まで」
     「私は30日と31日と、1月4日が休みだから……」
     「連続して休めないんだね (^o^; じゃあ、30日の木曜日に会おうか」
     「うん、そうしましょ」
     百合香は翔太を玄関まで送っていき、姫蝶が着いてくる前にキッチンと玄関を遮るドアを閉めた――それを合図にしたかのように、翔太が振り向いて百合香の唇を奪った。
     「今度あったときは、絶対だからな」
     「うん……それじゃね」
     「またな」
     二人はもう一回キスをして、翔太だけ外へ出て行った。
     百合香が部屋の中へ戻ると、姫蝶は機嫌よく「♪みにゃあ〜」と鳴いて見せた。
     「もう……キィちゃんたら……」
     そんなに翔太がいるのが嫌だったのか――と、百合香は思ってガッカリしたが、しかし、飼い猫はみんなそんなものかもしれない、と思い直して、姫蝶のことを抱き上げた。
     「お願いだから、次に翔太が来たときは、意地悪だけはしないでね」
     すると姫蝶は、分かっているのかいないのか、「にゃっ」と短めな返事をした。




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