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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年08月29日 17時50分52秒

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    夢のまたユメ・102

    その日は馨とデートをする約束をしていた。日曜日なので、いつもなら馨はメイドカフェでバイトをする日なのだが、特別にお休みがもらえたのである。
    宝生家へは男装で来た馨だったが、しっかり女装をする準備をしていた。
    「着替えさせてもらっていいでしょ?」
    馨が大きなバッグを見せながら言うと、
    「もちろん、メイクのお手伝いもしてあげる」
    と、百合香は部屋まで招き入れた。
    兄・恭一郎はその時、遅めの朝食を台所で取っていた。百合香の部屋へ入ろうとする馨を見つけると、口に入っていたものをお茶で流し込んで、
    「やあ、馨君。おはよう」
    と、声を掛けた。
    「おはようございます、お兄さん。今日はお休みですか?」
    「いや、今日は遅番でね。10時に家を出るんだよ。お休みは明日だ」
    「そうなんですね。サービス業は大変ですね、世間的にお休みの日に働かないといけないから」
    「その代わり、平日の日に休めるからお得なことも多いよ。映画なんかは空いている時間を狙って見に行けるからね」
    「ああ、そうですね」
    そこで百合香が「ホラ、早く着替えないと」と、馨を部屋の中へ軽く押し込んだ。「時間に遅れちゃう」
    今日は二人で映画を見に行くつもりだった。だが、百合香とは女性の格好で一緒にいたいが、しかし、ファンタジアにその格好で行くとなにかと厄介なことになる、と馨が言うので、隣の区にある映画館に行くことになっていたのである。
    百合香は馨の着替えを手伝ってあげながら、体がほぼ男性の馨が、いかに女らしい体型に見せるために努力しているかを、改めて知った。
    ゴスロリ風の服を着てから、ツインテールのウィッグをかぶり、化粧をすると、完璧に女性に見えた。
    「馨がこんなに可愛い格好をするなら、私もそれに併せた服装にしないとね」
    と、百合香は洋服ダンスを開いた。
    「紫のチュニックは? 百合香さん、オールシーズンで着られるように3着(春秋兼用、夏用、冬用)持ってたでしょ?」
    「下がレギパンだから、ベルトを締めないといけないのよ。お腹を締め付けると赤ちゃんに影響が......」
    「レギパンにベルト締めてるの?」
    「私はね。おしりのサイズに合わせて買ってるから、ウエストがゆるくて。ベルトしないと脱げちゃいそうなの」
    「百合香さん、ウエストが細いものね。でも、チュニックだったらレギンスでも......」
    「お辞儀した時、レギンスは布が薄いから、下着が透けて見えちゃうのが嫌なの」
    「そっか。そもそもチュニックはお辞儀することを前提に作られてないから......」
    「単に私が胴長なのかもしれないけど。普通の人はこの丈でも(と、夏用のチュニックを見せる)太ももが隠れるのかもしれないわ」
    「そんなことないと思うけど」
    「そう?......う~ん、そろそろマタニティードレスも買わないとだめかなァ......あっ、これにしよう」
    百合香は水色のワンピースに、レースのふわりとした白い上着を羽織った。
    「さあ、行きましょう」
    百合香たちが部屋から出てきた時、恭一郎は食べ終わった食器を自分で洗っているところだった。そして、馨の格好を見てびっくりした。
    「えっ!? ルーシーさん!?」
    「ハイ、ご主人様」と、馨はおどけて見せた。「いつもご来店ありがとうございます」
    「えっ!? えええ??????? 馨君がルーシーさんだったの!?」
    「やだ、お兄ちゃん」と、百合香は言った。「まだ気付いていなかったの?」
    「無茶言うな」と、恭一郎は言った。「そりゃ、初めて馨君に会った時、どっかで見覚えあるなァっとは思ったけど......」
    つまり、恭一郎は馨が勤めているメイドカフェの常連客だったのだ。馨は当然そのことに気付いていて、それでも、あの震災の次の日に宝生家を訪れた時はまだファンタジアの仲間には黙っていたかった為、さも恭一郎の店に買い物に行って接客されたかのような振りをしたのである。
    「まあ、ルーシーさんが男の娘(おとこのこ)なんじゃないかってのは、職場の仲間内でも言ってたんだけど(いつも職場の仲間と来店していた)。まさか、妹の彼氏になってるとは......」
    「お兄ちゃん、そこ違う」と、百合香は人差し指を左右に振りながら言った。「彼氏じゃなくて"彼女"だから」
    「ああ......そう......」
    「それじゃ、行ってくるわね」
    「はい、気を付けて行って来い」
    恭一郎は改めて、
    『そう言えばうちの妹は、女の子とお付き合いしていたこともある、れっきとした百合姫だったな......』
    と、思い知らされたのだった――母親もそうだったとは、露ほども知らずに。

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  • from: エリスさん

    2014年08月08日 11時28分52秒

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    夢のまたユメ・101

    「そろそろお腹も膨らんできてるし......」と、ユノンは遠慮がちに言った。「あっちの方、出来なくなってきてるでしょ?」
    「まだ大丈夫よ」と、百合香は言った。「私達の場合、私が立ち役だから、お腹に負担がかかるようなことはしないで済んでるもの」
    「そうなの?」
    「馨のことは"女"だと思って抱いてるのよ。だから普通の男女のように――」と言ってから、百合香はユノンの耳元で囁いた。
    それを聞いたユノンは「そっか......」と、安堵した。「完全に女同士として付き合ってるんだね」
    「そう。だから流産の心配とかはしなくて大丈夫よ......でも、ユノンが心配してくれているのは、そういうことではないのでしょ?」
    「うん......」
    「やっぱりね、ユノンには分かっちゃうのね」
    百合香はときどき考えることがあった――馨は身代わりとして傍に居させているだけなのじゃないかと。
    本当に好きなのは長峰翔太だ、という自覚はある。一人になった時など、図らずも翔太のことを思い出してしまい、寂しくなることもあった。なにしろ翔太とは外で会うよりも、家の中で過ごすことが多かったのだ。家の中ならどこに居ても、彼を思い出す切っ掛けが転がっていた。
    正直なところ馨とは、彼女が積極的に迫ってこなかったら交際してはいなかっただろうと思う。誰かと交際するつもりだったら、特にあの日は馨の前に伊達とも会っていたのである。伊達からの申し入れを先に受け入れていたはずだ。
    「とにかくあの日は、馨の方が必死だったの......馨にしてみれば、身体的な障害を抱えて、それで今まで好きになった女性から拒絶されたってことがあったから、自分を理解してくれる人に出会ったら、絶対に逃がしたくないって思うわよ」
    と百合香が言うと、ユノンも頷いて、
    「しかもユリアスは失恋したばかりで、落としどころでもあったしね」
    「まあ、そうね。だから、私と馨の交際は、まさにタイミングが合ったのよ。......だけどね、ときどき思うの。私、馨の体だけが目的で付き合ってしまったんじゃないかって」
    百合香がそう言うと、ユノンはミルクティーを一口飲んで、言った。
    「やっぱり、そういうことを悩んでたんだ」
    「ユノンには気付かれちゃうね、そうゆうの」
    「もう、付き合い長いもの」
    と、ユノンは微笑んだ。「大丈夫、心配いらないって」
    「そう?」
    「だってユリアスは、カールがファンタジアでバイトしていた頃から知ってるでしょ? その間に充分彼の――ううん、彼女の人柄は見てきたじゃない。そりゃ、ミネさんほどは好きじゃないのかもしれないけど、それでも、一緒に働いている間にかなりの好印象は感じてて、だからカールに迫られた時、交際してもいいなって思えたんだよ。大丈夫、体だけの関係じゃないよ」
    「......ありがとう。誰かにそう言ってもらいたかったのよ」
    「うん、感じてた。だから今日はユリアスに会いに来たの」
    ユノンは誰よりも間近で百合香の恋の経緯を見てきた。だからこそ、ユノンに言ってもらえた言葉なら信じられる。
    「やっぱり持つべきものは友達ね」と、百合香が笑うと、
    「そうでしょ? だから私のことも大事にしてね」
    「うん、大事にする」
    「それじゃ、そろそろお家に戻らない? いくらなんでも、もうキィちゃんのロマンスタイムも終わってる頃だと思うよ」
    「あっ、そうね! 幸太くんをお家に返してあげないと」
    二人はまだ飲みかけ・食べかけの飲食物をそれぞれに持って、東屋を後にした。

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  • from: エリスさん

    2014年08月01日 11時17分54秒

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    夢のまたユメ・100

    百合香は在宅校正士になってからと言うもの、食材を買いに行くのと定期健診に行く以外には外出をしなくなっていた。お腹の子供の為には軽い運動も必要だと言うことも分かってはいるのだが、そもそもの性格がインドアなのがいけなかった。
    しかしその日は、そうも言っていられなかった。
    猫部屋の窓の向こうに茶トラの猫がいて、ずっと姫蝶に話しかけているのだ。姫蝶の方も甘い声で鳴きながら、前足で窓ガラスをこすっている。
    『この茶トラちゃんは、柿沼のおばあちゃんの猫で、確か名前は幸太くん......』
    震災の折に姫蝶と知り合って、それ以来、こうやって窓越しに対面しているのだが、今日はいつもと様子が違っていた。
    『間違いない。姫蝶が発情期なんだわ (^_^;) 』
    発情期の雌猫に雄猫が求愛をしているということは、もう答えは一つしかない。
    『いつかは姫蝶にお婿さんを、とは思っていたけど......キィちゃんももう5歳。人間の歳に直したら30代ぐらいになるって言うから、子供を産むには、もうあまりチャンスはない、のかな?? どうする? 幸太くんをお婿さんにする?』
    こうゆう時、養母(飼い主)としては覚悟を決めなくてはならない。姫蝶が幸太と結婚して子猫が生まれたら、その子猫には一匹残らず里親を探してあげなくてはならない。どうしても見つからなかった場合は、すべて宝生家で養育しなければならない。捨て猫として放り出すなんてことは、絶対にあってはならないのだ。
    『よし、覚悟を決めたわ』
    先ず百合香は、窓を開けた途端に姫蝶が逃げ出さないように、姫蝶をゲージの中に入れた。
    窓を開けると幸太がひょいっと中に入ってきて、その場に座り、百合香のことを見上げていた。
    "にゃあ~"と鳴きながら、右の前足を上げて見せた。
    「えっと......ああ! 足を拭けって言うのね」
    外出自由の幸太は、家に入る時は必ず誰かに足の裏を拭いてもらうようにしつけられていたのだ。
    『流石は柿沼のおばあちゃん』
    百合香はペット用ウェットティッシュで幸太の足を拭いてやりながら思った。
    ゲージの中では、今か今かと姫蝶が歩き回っていた。
    「はい、お待たせ」
    と、百合香がゲージのドアを開いてやると、姫蝶が猛ダッシュで飛び出してきた。そしてすぐに幸太とラブラブモードに入ったので、
    「お姉ちゃん、お買いものしてくるわね。キィちゃんはお留守番してて」
    と、百合香は言って家を出た。
    外に出たところで、今日の買い物は済んでいるので、まったく用事がない。
    『仕方ない。寿美礼おばさんに言われた通り、散歩しよ』
    とりあえず慣れた道――シネマ・ファンタジアに行く時に通る遊歩道を歩いた。
    もうすぐ6月ということもあり、紫陽花(あじさい)の花がひっそりと控えめに蕾を付けていた。梅雨になればこの辺りは色とりどりの紫陽花で満開になる。
    『今年は梅雨の花見にも出掛けようかなァ。時間も出来たし、紫陽花も菖蒲も好きだし......』
    そんなことを思いながら歩いていると、向こうの方から手を振りながら近寄ってくる人物が見えた。
    「ユリアス~! お疲れ~!」
    ユノンだった――今日は勤務日だったはずだが......。
    「お客さんが少なくて、早上がりになっちゃったんだ。だから今からユリアスの家に行こうと思ってたの」
    「そうなんだ! あっ......でも、今うちには入れないわ」
    「なんで?」
    「実は......」
    百合香が姫蝶たちのことを説明すると、ユノンは大笑いした。
    「やだ、猫に遠慮して家を出て来るなんて (^o^)丿 」
    「だって......こうゆうの初めてなんだもん」
    「ユリアスって、猫を飼うのはキィちゃんが初めて?」
    「ううん。20歳になる前までニャン太っていう雄猫を飼ってたけど、あの頃は我が家もまだ木造平屋の古い造りで、ニャン太は好きに外出できるようになってたから、うちに雌猫を連れ込むことなんてなかったのよ」
    「なるほど。恋の情事は外で済ませてたのね、ニャン太くんは」
    「そうなの......だから、その幸太くんってね、もしかしたらニャン太の子孫なんじゃないかって思うのよ。ニャン太に色柄も体型もそっくりなんですもの」
    「アハハ、あるかもね、猫だから。......じゃあ、そこの東屋でお茶しない? お茶菓子にクッキー買って来たの。傍に自販機もあるし」
    「そうね、そうしましょ」
    二人は遊歩道の途中にある東屋に移動した。そしてユノンが自販機までミルクティーを二つ買いに行ったのだった。
    「お仕事の方はどう?」
    クッキーの袋を開けながらユノンが聞くと、
    「順調よ」と、百合香は答えた。「校正の仕事は私に合ってるわ。いろんなジャンルの作家さんの原稿が読めて楽しいの」
    「いろんなジャンルなの? 月刊つばさって若い人向けの文芸雑誌じゃ......」
    「つばさの原稿だけじゃないのよ、頼まれるのは」と、百合香は言うと、ミルクティーを一口飲んでから答えた。「仕事は崇原さんを通してくるけど、実際は海原書房のいろんな編集部から仕事を回してもらってるのよ。だから昨日終らせた仕事なんかは、俳句の雑誌の仕事だったわ」
    「へえ~~、そうなんだ」
    「俳句の原稿は解読が大変だったわ。草仮名って言って、なんか流れるような書体で書く人が多いの。上下の文字がつながってるような......」
    「平安時代の文字みたいな?」
    「そう、それ!」
    「へぇ、大変だねェ......」
    ユノンはクッキーを口の中に入れて、ゆっくりと噛みしめた......そして、思い切ったように、こう聞いた。
    「ねえ? カールとはうまく行ってるの?」
    「......悪くはないわよ」
    馨と付き合い始めて、もうすぐ一カ月が経とうとしていた。

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