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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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公開 メンバー数:6人

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  • from: エリスさん

    2007年05月30日 13時01分05秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・27」
     彰は立ち上がると、二、三歩ほど歩き、しばらく止まった。
     「八千代にも……」
     遥かに長い時を共にいようと魂を結んでいるのに、その誓いを君は無下にしようとするのか――という意味の和歌を彰が詠む。
     彩はすぐに返した。
     「ちはやぶる 木の葉枯れ落ち河流れ 八千代のかみの定めなりけり」
     〔チハヤブル(神にかかる枕詞)木の葉が枯れて落ちるのも、河が(低い方へ)流れるのも、遥か昔(「かみ」と読ませる)に神が定めた自然の摂理なのです〕
     「そんな常識など、わたしが打ち砕いてみせる」
     彰は言って、御簾をくぐって行った。
     従者が馬を出して待っている所へ行くと、少将が後を追いかけてきた。
     「三郎殿とのことを誤解なさらないでください」
     「誤解?」
     「お嬢様が他の人に御心を移すなどあろうはずもございません。それに三郎殿は……あの……私のところへ……」
     少将が恥じらいながら言うのを見て、彰も、ああ、と納得する。
     「そうなのか。悪いことをしたね」
     彰は言ってから、でも、と吐息をついた。
     「三郎の気持ちはどうでも、彩はそのつもりでいたんだな。たとえ一瞬でも」
     何も答えられない。
     「おまえはそんな女人になってはいけないよ、少将の君」
     彰はまっすぐに少将を見つめて言った。
     「彩のように、何事も己を殺して生きてはいけない。素直に己の想いを伝えられる、純粋な心のままの女人になってくれ。互いの気持ちを分かっていながら、応えてもらえないのは……応えさせてやれないのは、男として情けないばかりだ」
     彰が馬上の人となって門をくぐるのを見送っていると、背後の御簾の向こうから声が聞こえてきた。
     「想いを口にしないのも愛情よ」
     彩だった。
     部屋伝いに来たのだろう。彩は自分で御簾を上げると、少将の前へ姿を現した。
     「お嬢様」
     「私とて、ただの女人になりたい時はあるわ。でも、それは許されない。あの方は源氏の大臣の跡継ぎ、後々はこの国の支柱ともなる人なのよ。なのに、私のような女が正妻でいられると思って?」
     「でも……」
     「分かっているわ」
     彼が、全てを打ち壊し、傷ついても、自分を欲していることは。誰よりも彩が分かっていることだ。

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  • from: エリスさん

    2007年05月30日 12時42分58秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・26」
     「お嬢様がもっと御心を開いて差し上げれば、こんなことはないのだろうけど」
     「泣いてたね、彩の君様」
     「そうね」
     「好きだから泣くんだね」
     「うん……」
     三郎は目が潤んできて、袖でゴシゴシと擦った。
     「三郎殿?」
     「好きあっているのに、どうして結婚しないんだろう。なんでいけないのさ」
     身分違いだから? 容貌が劣るから?
     想いだけじゃどうして駄目なのだろう。
     三郎はますます悲しくなってきて、少将の肩を借りて泣きじゃくった。
     いつも彩に慰めてもらう時のように、少将も三郎の背中をポンポンッと叩いてやる。
     「どうする? もう少しここで待ってる? 若様がお帰りになるまで」
     三郎は首を横に振って、顔を起こした。
     「帰るよ、僕」
     真っ赤な目で言う三郎が、なんだか可愛く見えて、少将は微笑んだ。
     「少将」
     「なァに?」
     「僕さ」
     「うん」
     「君のこと好きだよ」
     「ありがと」
     「でも、君を泣かせたりしないからねッ」
     しばらくの沈黙。
     「うん、ありがとね」
     少将は満遍な笑みを見せた。


     彰は彩の前に膝を着くと、そっと声をかけた。
     「刀自子(とじこ)」
     「……ずるいのね、あなた様は」
     彩は俯いたまま言った。「乳兄妹ゆえに知っているその名を、いとも簡単に利用なさって、私を呪縛してしまわれるのですもの」
     「ずるいと言われても、わたしは君の心を独り占めしたい。だからこそ君の諱(いみな。忌み名)を口にして、その言霊の力を君に向けるのだ。なのに、君の心にそれは届かないのか……」
     届いている――苦しい程に満ち満ちている。そう言いたいのに、様々な障害がそれを押し止めていた。
     「お帰りになってください」
     彩は必死な思いで唇を動かした。
     「まだそんなことを言うの? なんのために少将が御簾を降ろして行ったか……」
     「お願いですから」
     再び涙が伝う。
     「いつまでも私を見ないで。あなた様の瞳に私を映さないでッ。お目が汚れます」
     「馬鹿なことを言うな!」
     彰は彩の両腕を掴んで、自分の方を向かせた。
     「醜くなんかない、劣ってなんかいない! 身分も地位も望まない!」
     彰がなお一層の呪縛をかける。――唇が触れ合う。
     十五歳になった月夜、源氏の三条邸の庭先で、初めて触れ合った。その思い出が蘇って、めぐる。
     「互いの魂が同化する儀式なのよ」
     彰の三番目の姉・薫の君が以前言っていた。
     「私も十五歳の時に、桜の君(薫の恋人)に教えてもらったの。嬉しかったわ。いつか絶対結婚できる――そう確信を持てた瞬間なの」
     彩もそう思いたい。
     でも、思えない――許されない。
     彼女の思いが伝わったのか、彰は離れてから寂しい目をした。
     「……帰るよ」

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  • from: エリスさん

    2007年05月29日 17時26分30秒

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    ちょっと横道

    「露ひかる〜」を執筆中のこの時、

    仕事先で好きな人ができてしまった。

    しかも、私より11歳も年下。

    なんてことだ。

    少将の君とは全然立場が違う上に、世情も違う。
    報われるわけがないと分かっているのに、どうして恋なんかしてしまうのだろうか?

    自分が分からなくなってくる。

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  • from: エリスさん

    2007年05月21日 13時48分29秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・25」
     いつもと違う――こんなに酷いことを言う人間ではないのに、まるで別人になったようだ。自分という人間がこの人をこうまで変えてしまおうとは……。彩の頬を涙が伝い落ちた。
     「どうして泣く? こんな姿を見られるのが恥ずかしいのか?」
     彰が聞くと、いいえ、と彩は答えた。
     「あなた様が傷つくのが怖いのです」
     瞬間、彰の腕の力が抜けた。だがもう、逃げる気も失せて、彩はその場に膝を落としてしまう。
     三郎が来たのはそんな時だった。彼は、この状況を見ると言葉もなく、立ち尽くすことしかできなかった。
     どれぐらい時間がたったのか、やがて彰が口を開いた。
     「おまえが常陸の守の三郎か?」
     「は……ハイ」
     物怖じしない性格の三郎でさえ、おののく。
     「わたしは源の宰相の中将。彩の君とはどうゆう間柄か、この状況を見ただけでもわかるだろう?」
     「ハイ、わかります」
     「ならばもう彩には会うなッ。彩はわたしのものだ、誰にも渡さぬ。良いか!」
     思わず「はい」と答えていた――他に言いようもなくて。
     「言いたいことはそれだけだ。去ってよい」
     だが三郎は足が硬直したかのように動けなくなっていた。そんな彼を、横から誰かが引っ張った。
     少将だった。
     少将は手早く御簾を降ろすと、隣室へ三郎を連れて行った。
     「ごめんね、びっくりしたでしょう」
     少将の言葉で、彼はようやく我に返った。
     「中将様って、もっと温厚な方かと思ってたのに」
     「温厚な方よ、普段は」
     だが、彩への情熱が高じて、時折困ったことをする。すべては彩を想えばこそだから、誰も諌めることができない。

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  • from: エリスさん

    2007年05月21日 13時33分48秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・24」
     「断るのだろう? もちろん。断ってくくれ!」
     彩は何も答えずにいた。その沈黙がますます彰を怯えさせることを知っていて。
     「やめてくれ、彩! わたしを廃人にするつもりか!」
     ちょうどそこへ、女房の石楠花(しゃくなげ)が顔を出した。「申し上げます」
     彰は咄嗟に座りなおしていた。
     「常陸の守の三郎君(さぶろうぎみ)がお越しになりましたが、如何なさいますか」
     彩は、しばらく待たせるように、と言うと、彰に対して、
     「今日はこれでお引取りを」と言った。
     「わたしに帰れと言うのか。三郎に会うから邪魔だと」
     彩は「はい」とだけ答えた――両手を強く握り合わせて。
     「やめてくれ……」
     彰は立ち上がりながら言い、几帳に手をかけた。ガタッと音がした途端、彩も立ち上がり逃げようとしていた。
     「刀自子(とじこ)ッ」
     几帳が倒れる。
     背中から包み込むようにして、彰は彩を捕らえていた。
     「誰にも渡すものか、刀自子はわたしのものだッ」
     「やめてッ、彰の君様」
     まだ廊下にいた石楠花は、引っ込むことも声をかけることもできずに、ぼうっとするしかなかった。それに気付いた彰は、
     「構わないからここへ通せッ」
     と、怒鳴った。
     「あの、でも……」
     「今すぐここへ連れて来い、早くッ」
     仕方なくと言うか、恐れながら石楠花は下がっていった。
     彩はこんな姿を見られる自分への気恥ずかしさよりも、彰への醜聞を恐れて、懸命にもがいていた。だが、彰の腕はいっそう強く抱きしめてくる。
     「動くな、刀自子」
     「本名で呼ばないで。他人に聞かれでもしたら……」
     「今ここへ来るのは三郎だ。構わないのじゃないのか、そういう仲になるつもりなら」

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  • from: エリスさん

    2007年05月21日 13時18分02秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・23」
     「戯れた覚えはないッ」
     その口調がますます拗ねているようなので、可愛く思えた彩は、仕方なく少将を御簾の傍から遠ざけた……隣室にはいるのだが。
     「まったく……」
     彰は深いため息をついてから、言った。
     「公務が忙しくて、訪ねられないでいる間に、もう他の男を通わせるとは、情けないばすりじゃないか」
     すると彩は、少しも笑顔を変えずに答えた。
     「それは邪推にございます。三郎殿はまだ幼くて、色恋沙汰には無縁の人ですのよ」
     「つまり、君には物足りないということかな」
     「足りるとか足りないとか、そういう相手ではないと申しておりますでしょう? それとも、あなた様はお友達を作ることさえもお止めになるのですか?」
     「ただの友達が、毎日通ってくるのか」
     「あの子は勉学のために来ているのです」
     「勉学だけを朝から日暮れ近くまでやっているとでも言うのか?」
     「よくお探りになさってますこと」
     「当然でしょう。ゆくゆくは我が正妻となる女人(にょにん)に悪い虫が付くのを、黙って見ている男などいるものか」
     彩はそれを聞くとしばらく黙ってしまい、吐息をついた。
     「どうしても私のことをお諦めくださいませんのね」
     「代わりに死ねと言われても」
     「……では」
     彩は記帳の向こうにいる人を強く見つめて、言った。
     「私が他の男のものになっても?」
     その言葉は彰を驚愕させるに足るものだった。
     「やはり……三郎と……」
     「母よりその話が来ました」

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  • from: エリスさん

    2007年05月16日 13時56分11秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・22」
     


     四条の屋敷はあまり人の出入りは多くないが、唯一、激しく通ってくる客がいた。
     「常陸の守の三男が、ひっきりなしに訪ねてくるそうだね」
     源氏の大臣の一人息子・源宰相中将彰利(みなもと の さいしょう の ちゅうじょう あきとし)は、少し目尻をあげながら言った。彼は彩の乳兄妹にあたる。――源氏の若君である。
     彩は几帳の向こうで、更に扇で顔を隠しながら答えた。
     「とても可愛い教え子ですわ、彰(しょう)の君様。きっとあなた様もお会いになれば、お気に召しましてよ」
     「気に入りたくもないよ……それよりも」
     彰は忌々しそうに、彩の向こうにかかっている、部屋を仕切るための御簾を睨み付けていた。
     「君の後ろにいる女房を、早く下がらせてくれないか」
     「これはおかしなことを申されますこと。女房と言っても一人だけ、しかも、あなた様も良くご存知の少将ではございませぬか。彼女を傍にお話をするのは、いつものことでございましょう」
     本来ならば、彰の中将は主人とも言うべき人なのだから、几帳越しに逢うのも失礼なのだが、時折彼が彩を困らせるようなことをするので、必ず少将を傍に置いて、隔てを置くようにしているのである。
     それに、醜い容貌を見られるのも恥ずかしいので。
     だから服装も、三郎と会うとき以上に着込んでしまう。
     「なぜ二人っきりで逢わせてはもらえないんだ、彩の君。わたし達はこれほどまでに隔てなければならない間柄ではないと思うがね。少将も少将だ、気を使って遠慮してくれても良さそうなものなのに」
     すると、彩はクスクスッと笑った。
     「そのように拗ねないで下さいな。私も、あなた様が戯れなことをなさらなければ、少しは隔てを解きましょうほどに」

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  • from: エリスさん

    2007年05月16日 13時38分39秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・21」
     答えそうになって、少将は慌てて口を押さえた。
     三郎がニコニコと笑っている。
     「へえ、君の本名の初めの文字は“や”か」
     「もうッ」
     少将は恥ずかしがりながら怒った。
     「油断もできやしない」
     すると、三郎は真顔になって、少し相手の方へにじり寄った。
     少将は臆しながらも、逃げはしなかった。
     「浮ついた気持ちなんか、無いからね」
     三郎はどこか可愛さを残しながら、精一杯真剣に言った。
     「初めてこのお屋敷を訪ねたときから、気にかかってたんだ、ホントだよ。初めは可愛い子だなァって……今じゃ、頭がいいところとか、良く気がつくところとか……とにかく、少将の全部が大好きだッ」
     二人して恥ずかしくなって、俯いてモジモジとしだす。
     「結婚してよ、少将……」
     「……でも……だって……私、あなたより……五つも年上なのよ?」
     すると三郎は咄嗟に言った。
     「僕、年上好みなんだッ」
     しばらくの沈黙。
     「同じ歳に見えるって、言ってたくせに」
     「いや、あのときはその……えっと、ごめん。気にしてたの?」
     少将が、コクン、と首を縦に振る。
     「僕もさ、まずいこと言ったなァ……とは思ってたんだけど……ごめんね。だから、ね、その……」
     少将が胸の前で両方の手の人差し指を弄び、三郎が床の上でのノ字を書いている光景は、傍から見ていると可愛いのだが、じれったい。
     「僕、真剣だよ」
     ようやく言った三郎の言葉に、少将は俯いたまま答えた。
     「この間も言ったけど、考えさせてくれる? 私、求婚されるのって初めてなの。だから……お嬢様と相談してもいい?」
     三郎は微笑みながら頷いた。
     「無理強いはしないよ、待ってる」
     「うん、ありがとう」
     相談などする前に、傍で聞き耳を立てていた女房や童女達に報告されていようとは、その時は幸せすぎて考えもしない少将だった。

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  • from: エリスさん

    2007年05月16日 13時23分19秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・20」
     「ホント、凄いよ彩の君様は」
     三郎も少し興奮気味に言った。「男だってあんなにはいかないよ。僕の兄たちなんか比べ物にならないぐらい、教え方も上手なんだ。なぜあの方は男に生まれてこなかったんだろう。でも、それなのにとても女らしくて。本当に貴婦人とはあの方のことを言うんだろうね。きっとお美しさも並じゃないんだろうなァ」
     少将はその言葉で返事がしにくくなって、黙ってしまう。
     「どうしたの? 少将」
     三郎の問いに、少将は言いにくそうにしながら、
     「お嬢様のことを、世間はどう噂しているのかしら?」
     「え? どうって……教養高くて、嗜みも深く、とても高雅な人で……あっそうそう、和琴の名手で、その爪音は天人の楽の音とか。源氏の三の君様――今度、尚侍(ないしのかみ)として入内するって噂の人とは親友なんでしょ?」
     よく知ってるわね、と少将は驚いてから、それから? と聞いてみた。
     「それから……源氏の若君がご執心なので、憧れている殿上人は多々いるのに、誰も手紙すら送ることができないとか。……それぐらいだよ」
     「そう……」と少将はため息をつく。「大層な美姫……という、噂はないのね」
     それを聞いて、あっ、と三郎も気がついた。
     「お兄君の伊予の守様が美男でいらっしゃるし、尼君様もお美しい方だと評判だったから、お嬢様のこともさぞ……と、思っている人はいるでしょうけど、うちのお嬢様はお父君似でいらして……だからと言って、お嬢様ご自身が思っていらっしゃる程、醜女なんかじゃないのよッ。時折はハッとさせられることもあるぐらい艶やかなところもあって、お優しさがお顔ににじみ出ていらっしゃるの。だけど、美姫で名高い源氏の姫君方と一緒にご成長なさったから……。あの方たちと比べられたら、誰だって自信をなくしてしまうものよ」
     「ふうん……紫のゆかり(源氏物語)に出てきた花散里の君ってとこかな?」
     「実にいい表現よ、まさにその通り」
     「でも、若君がご執心な方だもの、そんな欠点があったとしても、補い余るだけの才能の持ち主ってことだよね」
     「ええ、もちろんよ。どこのどなたであろうと、うちのお嬢様に適いはしないわ」
     少将が笑顔に戻ったので、三郎はすかさず言った。
     「ところで君の本名なんだっけ?」
     「や……!?」

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