新規登録がまだの方

下の[新規登録]ボタンを押してコミュニティに登録してください。

新規登録(無料)

登録がお済みの方はこちら

コミュ二ティポイントのご案内

詳しく見る

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜>掲示板

公開 メンバー数:6人

チャットに入る

サークルに参加する

サークル内の発言を検索する

新しいトピックを立てる

サークルで活動するには参加が必要です。
「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
※参加を制限しているサークルもあります。

閉じる

  • from: エリスさん

    2009年11月27日 16時00分40秒

    icon

    「阿修羅王さま御用心・6」


     ちょうどそのころ、相沢唄子のボーイフレンド――筆者さえ名前をつけようか迷っている、つまりどうでもいいキャラクターの青年――と、その仲間は、学院内に潜入して、作戦会議を開いていた。
     「もう唄子の頼みなんかどうでもいいんだ。とにかく、男の俺らが、あんな一見か弱そうなお嬢様に負けっぱなしっていうのが許せないんだ」
     「今度こそ、ギャフン、と言わせてやろうぜ、同胞ッ」
     「それにはどうしても、弱点を握っておかなくちゃならない」
     「大分情けないが、それも仕方ない」
     「それで調べたんだが、大梵天道場って言うのは、男子門下の男色は禁じても、女子門下の女色は奨励されているんだそうだ」
     「なんだそりゃ?」
     「つまり、大梵天武道は元は〈巫女武道〉だから、女体は清廉なものと見ている。巫女っていえば、生涯純潔の神仏の花嫁ってやつだろ?」
     「そういえば……」
     「だから、女体同士は決して汚れない、っていう考え方があるんだそうだ」
     「いわゆる“ガチ百合”だな。男には居づらい環境だなァ。で? それがどうした」
     「それでね、あの女にもご他聞にもれず女がいるらしい」
     「うらやましいな、オイ。俺なんか、彼女イナイ歴十九年……」
     「そうだろ? 女のくせに女がいるなんて、許せないだろ? だからさ、その女が誰なのか探ってみようぜ」
     「探ってどうすんのさ」
     「そりゃおまえ、いざとなったらその女を楯にして……」
     「うわァ、おまえ、悪人だなァ……よし、乗った」
     郁がこいつらの楯になんか大人しくなるわけがないが……はてはて、どうなることやら。



     講堂にある女子シャワールーム。そこでは、演劇科の生徒がハードな稽古の疲れを落としていた。
     「お先にィ!」
     演劇科一年・宗像瑞穂(むなかた みずほ)は、濡れ髪をタオルで拭きながら、急いで出て行ってしまった。それを見ていた彼女のライバル・南条千鶴(なんじょう ちづる)は、バスタオルで自分の体を拭きながら言った。
     「なに慌ててんのかしら? あの子」
     すると、隣にいた同級生が言った。「演劇研究会の集まりがあるんでしょ」
     「ふう〜ん……いいわね、金のあるサークルは」
     千鶴のいる「七つの海の地球儀」は、春と秋の学院祭のみ公演を行っていた。芸術学院は名門、資産家の子女が多く通っている専門学校だが、なかには千鶴のように一般家庭の生徒もいるのである。そういった生徒が多くいるサークルでは、確かに活動費が苦しくなってくる。対して「永遠の風」のメンバーは、会長がこの学院を経営している藤村家の縁者で、次期会長も“TOWAグループ”前会長(北上世津子)の孫娘、他にも陶芸家の娘、会社社長の娘と、なぜか金持ちが多いうえに、学院が目をかけている「サロン(特に優秀な生徒が選ばれ、特別講義と交友会を開いている)」の生徒たちなのである。いろいろな場所からヘルパーも集まってきて、大規模な舞台が上演できるのだ。よって、年三回は公演しないと、逆に観客が納得しないのである。
     「南条さんも永遠の風に入れば良かったのに。あなたの実力なら、あそこでも通用するでしょう」
     「入学した当初は、この学院の演劇サークルがそういう仕組みになってるって知らなかったのよ。それに、七つの海――の方は、私の好きな歌手が歌ってる曲のタイトルと同じだったから、気に入っちゃって」
     「サークルの創始者がチェッ○ーズファンだったんだっけ」
     そこへ、出入り口の方から声をかける生徒がいた。
     「南条さァん! お客さんよォ!」
     「誰よッ、こんな格好してる時に(-_-メ)」
     千鶴はまだブラジャーのホックをはめようとしていたところだった。
     「あのね、和服着たすっごく可愛い子^m^」
     「え!? 沙耶?」
     千鶴はホックが外れていることなど構わずに、そちらへ行った。

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月20日 15時24分07秒

    icon

    「阿修羅王さま御用心・5」


     サロンの真上、五〇一号室には、ピアノコースの天才児・梶浦瑛彦の他に、彼の母方の従弟・黒田龍弥(くろだ たつや)が来ていた。
     「おまえ、いい加減にしたらどうなんだ?」
     龍弥が言っても、何が? と答えながら、彼はまだ鍵盤から指を放そうとはしなかった。
     「別に北上がどうなろうと知ったこっちゃないけどさ」
     「まだアヤさんのことが嫌いなの? タッちゃん」
     「その呼び方やめろって! あいつがおまえのリサイタルにゲスト出演させられる度に、永遠の風のメンバーが困るんだよ。あいつら、もうすぐ卒業公演なんだぞ」
     そこでようやく瑛彦は指を止めて、龍弥の方を向いた。
     「今回の卒業公演、君の愛するあの子が主演なんだってね」
     龍弥は思わず紅くなった。「……だから、なんだよ」
     「だから、彼女の舞台を台無しにしたくない……だろ?」
     分かってるんだったら……と、龍弥は思ったが、口には出せなかった。
     「俺も彼女を愛してるんだ」
     と、瑛彦が言ったので、龍弥はドキッとした。
     「オイッ、よくもそんなキザな台詞!」
     「言っておくけど、君の彼女じゃないよ。アヤさんの方だ」
     「ああ……趣味悪いよな、おまえ」
     「人間を顔で選ばないのは、君も同じだろ? 最も、アヤさんは容姿の欠点など補い余るほどの才気ある女性だ。俺の他にも彼女に憧れる人間は、とても多い」
     すると、郁子の才能に嫉妬している龍弥は、とどめの一言を言った。「なぜか女ばっかりだけどな」
     「同性にも憧れられるということは、それだけ魅力的だと言うことさ」
     「言ってろよ」
     やってらんねェな、こいつとは……と思いながら、龍弥はタバコに火をつけた。
     瑛彦はそんな従弟を見て、フッと笑った。彼が煙草を吸っているときは、大概精神的に落ち着かない時なのだ。それを知っているのは、彼とごく身近な人間だけである。
     「実はさ、俺が彼女を指名する理由は他にもあるんだ」
     「あん?なんだよ、それ」
     「いずれ見られるさ……いずれね」
     この意味あり気な笑顔に惚れる女もいるんだから、世の中わかんねェよなァ……と、龍弥は嘆息をつくのだった。


    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月20日 12時19分03秒

    icon

    「阿修羅王さま御用心・4」
     三人の会話を聞いて、水島有佐は大笑いした。「カール(郁の愛称)って喧嘩っ早いからねェ。ホント良くこの学院内では“憧れの御令嬢”を演じていると思うわ」
     有佐と郁は同じ孤児院のルームメイトだったので、お互い良く知っているのである。昔はその道で知らないものはいない「スティック・アーサ」と「ハリセン・カール」(この通り名を郁は嫌っている)として、ヤンキー達を制していたこともあった。
     それがどうして郁だけ“憧れの御令嬢”を演じているかと言うと、彼女の母親がこの学院の前学院長・藤村葉子(ふじむら ようこ)の養女にして、小説家、及び創作ゼミナールの講師と「サロン」の責任者だった今は亡き川村忍(かわむら しのぶ。これは筆名で、本名は藤村忍)だったからだ。しかも郁自身がすでに小説家・川村郁として活躍しているため、とてもじゃないが「元不良」なんてことがバレると、学院としては大問題になるため、現学院長の藤村克彦(葉子の弟)が、
     「お母さんのことを愛しているなら、この藤村家の威厳と誇りを汚さぬようにしていてほしい。あなたならそれが出来ると思いますよ」
     と、まるで仏のような顔をして郁を説き伏せたからである。
     とはいえ、郁が不良みたいになってのも、そもそもは「いじめ」を克服するためだったので、それさえなければ、上品に振る舞うことぐらいなんのことはないのだが。
     「それにしても……」と、口を開いたのは、郁子の高校時代からの後輩で、美術科一年の今井洋子(いまい ひろこ)だった。
     「あの相沢唄子さんも、毎回のことながら懲りませんよね。郁子先輩さえいなくなれば、もしくは怪我をしてステージに上がれなくなれば、自分が取って代われると思ってるんですから」
     「そう、あいつの馬鹿なところはそこなのよ。アヤさんがそこらの男どもに腕力で負けるわけないって、もういい加減わかりそうなもんなのに。第一、梶浦君があいつを選ばないのって……」
     有佐がそこまで言ったところで、建は口を挟んだ。
     「アーサさん、それは言わない方がいいですよ。一応、あれで声楽コースのトップなんですから」
     「納得できないなァ。なんであの程度で? エリー先輩(前「永遠の風」会長・流田恵理)なんか、もう! 誰もが認める声楽コースのスターだったわ。トップを務めるなら、エリー先輩のせめて足もとに及ぶぐらいじゃないといけないってのに……あの女のどこに、そんな才能があるわけ?」
     「なんか聞いた話によると、相沢さんは〈学科のトップ〉で、総合すると〈声楽コースのトップ〉になるらしいですよ」
     と言ったのは洋子だった。
     「それって、学力だけで上に行ってるだけで、歌の技術では相沢唄子を上回る人間がいるってことじゃない。いいの? 声楽コースがそんなことで」
     有佐が憤慨しそうになるのを、まあまあ、と建が押さえた。
     「相沢もそれなりに歌えるやつなんですよ。ただし……実は梶浦さんが相沢をゲストに選ばないのには、理由があるんですよね。その理由こそが、相沢の最大のネックなんですけど……」
     建はこっそりとその理由を皆に教えてあげたのだった。

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月13日 16時46分39秒

    icon

    「阿修羅王さま御用心・3」
     ……で、その日の午後に郁子は梶浦 瑛彦(かじうら あきひこ)から冒頭の宣告を受けたのである。
     梶浦瑛彦は音楽家ピアノコースの天才児と呼ばれ、年に三回のリサイタルを学院主催で行っているのだが、その度に郁子を独唱者としてゲスト出演させていた。声楽コースの生徒ならいざ知らず、文芸創作科の彼女が指名されることに、声楽コースの生徒が快く思うはずはないのだが、郁子は五歳の頃から亡き父の経営していた“TOWAグループ(音楽関係の企業)”系列の音楽教室に通っており、昨年の声楽コース首席であり「永遠の風」の前会長の流田 恵理(ながれだ えり)も一目置いたほどの腕前なので、誰も文句は言えないのだ……たった一人を除いては。
     相沢唄子(あいざわ うたこ)は「北上郁子さえいなければ……」と、毎回ボーイフレンドを頼って刺客を放っていた。だが、その刺客どもはことごとく返り討ちにされていた。それもそのはず、郁子は中学一年生の時に校内虐待事件で病院送りになったことが切っ掛けで、祖父も入門していた「大梵天道場」に入り、二年生の時には道場の八部衆の一柱・阿修羅王の称号を授けられるまでになっていたのだ。刺客、闇討ちは日常茶飯事だったのである。
     だからと言って、安全なわけではない。戦闘に一般生徒が巻き込まれては大変なことになるし、ましてや友人を楯に取られることも考えられる。よって、郁子は瑛彦に出演依頼されるたびに、(授業中は襲わない、という規約はできているから)休み時間になると身を隠さなければならなかった。
     そんなわけで……三時限目の授業を終えた「永遠の風」の面々は(四時限目の授業は大体のメンバーが受講していなかった)、四月から再び開講される「サロン」の部屋――四〇一号室でたむろっていた。
     「今思うと……」と、建はバインダーに何やら書き込みながら言った。「カールの姉御がいなくて、良かったかもしれないな――キエ、“つながる”って漢字でどう書くんだっけ?」
     「“繋がる”も書けないの?」と言いつつ、建のバインダーの隅にその字を書いてやる、文芸創作科一年の三橋 紀恵(みはし きえ)だった。「確かに、佐保山さんがいたら、今頃は……」
     「先手必勝の大乱闘になってたかもしれないね」
     と言ったのは、文芸創作科一年の広末 桜子(ひろすえ おうこ)だつた。――以上の三名が、文芸創作科の未来のホープと黙される三人娘である。

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月13日 16時17分41秒

    icon

    「阿修羅王さま御用心・2」
     時はその日の午前中に戻る。この学校の名物令嬢・佐保山 郁(さおやま かおる)は、婚約者で学院の講師でもある藤村 郁彦(ふじむら ふみひこ)と共に車で登校した。
     だがそれは、授業に出るためではなかった。(そもそも三学期に入ってしまうと授業もあまりないが)
     旧校舎の下、アーチ状の入り口のところで、呼び出された演劇研究会「永遠の風(とわのかぜ)」の面々は、会長である郁の話に目が点になってしまった。
     「藤村さんと一緒に、パリへ行くって言うの?」
     郁の親友で音楽科パーカッションコース三年の水島 有佐(みずしま ありさ)がそう言うと、
     「そういうこと」と、郁は微笑んだ。
     なので、妹分(?)で文芸創作科二年の北上 郁子(きたがみ あやこ)も言った。
     「そんな姉様(ねえさま)! 卒業公演の稽古があるのに」
     「そうですよ!」と言ったのは、同じく妹分で文芸創作科一年の草薙 建(くさなぎ たける。名前も性格も男みたいだが、歴とした女)だった。「姉御(あねご)以外に誰が演出をするんですか!?」
     「それはアヤに頼むわ……いいわね?」
     郁のお色気攻撃をさらりとかわして、郁子は言った。
     「ほとんど舞台の上にいる私に、どうしろと言うんです? 姉様」
     「第一ね!」と有佐は言った。「なんであんたが一緒に行くわけ? 個展開くのは藤村さんでしょ!」
     「だってェ〜、郁彦がどうしてもって……」
     「あんたね! 会長の自覚あるの!」
     郁と有佐が口論をしているうちに、郁彦は端の方に郁子を呼んで、事情を説明した。
     「一人にしておくと、またヤケを起こすだろ? あいつを共有するのは君だけでたくさんだから」
     郁子が郁の愛人になった経緯は、郁彦が忙しさに任せて郁を放っておいたものだから、その寂しさから、郁が郁子を無理やり自分のものにしたからだった。
     なので郁子は微笑んだ。「心中お察ししますわ、藤村先生」
     「それじゃ、いいね?」
     「五日間だけですね? なんとかやってみます」
     次期会長の郁子がOKを出してしまったら、もう誰も反対できない。
     「それじゃ、行ってくるね!……あっ、そうだ。アヤ!」
     「はい?」
     郁は素早く駆け寄って、郁子の唇にキスをした。
     「私がいないからって、他の女に手ェ出しちゃだめよ」
     「姉様と一緒にしないでください」
     これを見ていた郁彦は、郁の耳を掴んで、引っ張った。
     「フィアンセの前で他の人間に手を出すな!!!!」
     「嫌ァ〜ん、郁彦、痛ァい!」
     「あたりまえだ、ボケッ」
     こうして、郁彦に車の中へ押し込まれた郁は、一路パリへと旅立ったのだった。

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月06日 15時35分30秒

    icon

    阿修羅王さま御用心・1

     その日、その言葉は突然に降ってきた。
     「俺のリサイタルに出てもらうよ」
     北上郁子(きたがみ あやこ)はその一方的な決定事項に、当然の如く抗議した。
     「どうしていつも、勝手に決めてしまうの。私にだって舞台があるのよ!」
     「君以外のシンガーは考えられない」と、梶浦瑛彦(かじうら あきひこ)は言った。「とにかく出てもらうから。曲はあれがいいな、メンデルスゾーンの……」
     「〈歌の翼に〉は確かに十八番(おはこ)ですけど! この時期にそんなこと言われても困るんです! またあの人が出てきちゃうじゃないですか!」
     そう、あの人は「今度こそ!」と出番を待ちに待って、二人がいつも練習しているこの部屋の前で、しっかり立ち聞きをしていたのであった。
     「音楽科声楽コースのトップである私を差し置いて、許せなァい!」
     その人――相沢唄子(あいざわ うたこ)は、いつものようにボーイフレンドの武道青年に電話をかけた。
     「そうか! 俺の出番だな!」
     彼――名前はまだ決めていない――は、同じ道場の仲間を連れて、郁子の前に立ちはだかった。
     「大梵天(ブラフマー)道場の阿修羅王(アスーラ)・北上郁子! 勝負だァ!」
     郁子は、もう毎度のことで嘆息をつくしかなかったのであった。


         芸術学院シリーズ 番外編
           阿修羅王さま御用心


     御茶ノ水は「とちのき通り」にある芸術学院――芸術家を志す者が集う所。旧校舎と新校舎を併せ持つ「本館」では高等部の美術科と文学科、大学部の美術科、演劇科、文芸創作科、写真科、音楽科声楽コース及びピアノコースの生徒が学び、坂を登りきったところにある新設校舎「別館」では、音楽科弦楽コース、管楽コース、パーカッション(打楽器)コース、服飾デザイン科、建築デザイン科、などの生徒たちがそれぞれに鎬(しのぎ)を削っている。――と言えば聞こえはいいが。早い話が「変わり者の集まり」なんである。
     

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 35
    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月06日 15時09分49秒

    icon

    「これにて終了」
     というわけで、「箱庭シリーズ」はこれをもって終了です。
     vol.6を書く前にvol.5を改訂してありますので、まだ読んでいない方は、カレンダーの「前月」をクリックして、10/30の分を読み直してくださいね。

     この話を作っていた当時(平成10年5月ごろ)の私は、かなり重症な失恋を経験した真っ最中で、作品もその影響を受けて、かなり暗い作品に仕上がっていると思います。
     今現在の私は片思いでも幸せなんで、ネットに載せるにあたって多少書き換えたシーンもあり、それなりに闇は払拭できたはずなんですけど........どうなんでしょう? 読者のみなさん、ちゃんと感想くださいね。

     この後、沙耶たちがどうなっていくか.....ですが。
     「箱庭シリーズ」は終わってしまいましたが、大本の「芸術学院シリーズ」がまだ生きているので、キャラクターのその後は決まっています。
     先ず、沙耶と喬志は無事に結婚しまして、双子の女の子の親になります。沙耶は細々と小説家としての活動も続けていますが、基本的には主婦として落ち着きます。喬志の方は「月刊桜花」の編集長を任されるまでに出世し、姉妹誌の編集長である黒田龍弥(草薙建の夫)と組んで、ネット小説の世界から新人発掘に尽力を注ぐようになります。
     来目杏子は夫である大石が三年後に脳梗塞で死去します。実は大石、杏子と結婚してから急激に肥満化していきまして.......杏子なりの復讐なのかどうなのか?.....それはさておき。大石の伯父である社長には子供がなく、大石を後継者にと考えていたのにその希望も潰えたので、大石と杏子の子次の後継者にすべく、彼が成人するまでの間、杏子が社長に就任することになります。――史織が予言したとおり、杏子は強運な人物なのでした。



     さて、次回作ですが........。

     しばらくの間、表題である「恋愛小説」からは離れようと思います。
     それはなぜか.....................ネタがつきました。
     ですが、恋愛小説じゃなくても、皆さんに読んでもらいたい作品はまだまだあるので、このサークルは存続させたいと思います。ですので、しばらく恋愛小説はお見せできなくなりますが、どうかご容赦ください。
     これで読者が減っても仕方ないな、と思っています。

    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト

  • from: エリスさん

    2009年11月06日 14時44分26秒

    icon

    「雪原の桃花、白夜に十六夜月――「箱庭」異聞・6」
     「ホント?」
     自信がなかったわけではないけれど、俺は念のために彼女に聞いてみた。
     「はい……こんな私でいいのなら」
     「いいに決まってる。良かった……そこだけ夢の通りにならなくて」
     俺がそういうと、彼女は微笑んでくれた。
     「それじゃ、さっそくだけど君のご家族にご挨拶に行かなきゃ」
     「え!? そ、それはまだ早いです! あの……日を改めてにしてください」
     「そうだね。でも近いうちに行くから。飛蝶が生まれるまでにここに引っ越して来なきゃいけないんだからさ」
     「それなら最低でもまだ二カ月あります。飛蝶は生後二カ月でうちに来たんですから」
     「あっ、生まれてすぐじゃないんだね」
     「喬志さんったら、猫好きの割にはあまり知らないんですね。子猫をもらうときは、生後二か月まで待たなきゃいけないんですよ。その間に、子猫は母猫から独り立ちするための教育を受けるんです」
     「へえ……」
     それからしばらくして、立ち話ばかりしてもいられないから、二人で駅前まで歩くことにした。聞けば、彼女は夕べお姉さんの家に泊まって、そのまま家に帰っていないという。親御さんが心配しているかどうかは疑わしいけれど、それでも早く帰らないことには、また何を言われるか分らない――そうゆう心配もあって、今日は挨拶に来てほしくなかったのか。
     俺たちは歩きながらも、また少し話をした。その時、俺は妹の史織の言葉を思い出した。
     そのこと、思い切って聞いてみるか。
     「ねえ、ところで……うちの妹に、なにかお願い事されなかった?」
     すると沙耶は「え!?」と途端に赤面した。
     そして、恥ずかしそうに答えた。
     「あの……私のママになって……って」
     「ええっと、それってつまり……」
     俺と沙耶の子供として生まれてくるって意味だよな、妹よ。
     「大丈夫だよ、二人目もちゃんと産めるよ……って、言ってくれたの、史織さん。おかげで夢の中の私は、かなり勇気づけられたのよ」
     「……そっか」
     そういうことなら、なんとしても結婚しなきゃな。沙耶の親御さん相手だと、かなり揉めそうな気もするけど……でも、そんな不安も今は払い除けられるぐらい、今の俺は晴れ晴れとした気持ちだった。

                                終


    • コメントする

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 拍手する

      サークルで活動するには参加が必要です。
      「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
      ※参加を制限しているサークルもあります。

      閉じる

    • 0

    icon拍手者リスト