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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年05月23日 12時26分10秒

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    夢のまたユメ・96

    馨の秘密は一部の人間だけのものとして守られた。が、次の日、ご近所にまだ報告していなかったことがバレてしまった。
    「なんで赤ちゃんが出来たこと、幼馴染の私たちに黙ってたのよ!」
    「そうよ。私達をもっと頼って!」
    荒岩静香と福田千歳の言うことも、もっともだった――どうしてバレてしまったかと言うと、例の如く百合香がペットボトルの飲料水を求めて「母子手帳をお持ちの方限定」の売り場に並んでいると、そこへ時間交代でレジに入った千歳に見つかってしまったのである。
    特に隠そうとしていたわけではなかったが(そもそも隠すつもりだったら、千歳が勤めているSARIOの食品売場では買わない)、なかなか話す機会もなかった――というより、機会を作れなかったので(恋愛絡みで)、その点では恐縮するしかなかった。
    「ごめ~ん! 何かと忙しくて話に行けなかったの」
    百合香が言い訳すると、静香も千歳も「しょうがないなァ」と、ため息を付いた。
    「それで、水以外にも何か必要なものは?」
    と、静香が言うと、
    「ベビーベッド......二人の家で、まだ残ってない?」
    と、百合香が答えた。すると、
    「ああ! それなら家にあるよ」と、千歳が言った。「二人目できたら使おうと思って取ってあったの。ユリちゃんにあげるわ」
    「じゃあうちはベビーカーをあげる!」と静香は言った。「外出の時とか絶対必要よ。ベビー服もあるよ、良かったら」
    「うん、ありがとう」と、百合香は満面の笑みを浮かべた。「赤ちゃん用品って高額だから助かるわ」
    持つべきものは近所に住む幼馴染であった。

    それからまた数日後。その日は産婦人科医の寿美礼のもとへ検診に行った。
    午前の診療の一番最後がだったので、診察後に寿美礼は「お昼ご飯を一緒にしない?」と誘ってきた。
    「あら、いいの? 私がお邪魔して。麻友(まゆ)さんと一緒に取るんじゃないの?」
    麻友と言うのはここの看護師で、寿美礼の交際相手だった。
    「いいのよ。麻友ならもう、今晩の夜勤に併せて一時帰宅したから」
    「あら、そうなの?」
    「むしろ他の看護師を食事に誘うと麻友に疑われるから、アリバイになってちょうだい」
    「仕方ないなァ。寿美礼おばさんのためにご一緒してあげる」
    診察室の隣室が寿美礼の控室になっていて、そこへ院内食堂からざるそばのセットを二人前運んでもらった。
    二人は共通の話題である沙姫の思い出話をしながら食事をした。百合香が幽霊として沙姫に会った話をすると、寿美礼は何の疑いもなく信じてくれた。
    「沙姫ならやりそうよね、それぐらい......」
    「母って、やっぱりそれぐらい非常識だったんですか?」
    と、百合香が聞くと、
    「非常識というか......彼女はもともと霊感があるのよ。どうして沙姫が医者にならなかったか、知ってる?」
    「久城家の跡を継ぎたくなかったからじゃないの?」
    「それもあるけど......見えるからなのよ。病院にいると、無念のまま亡くなった人たちの幽霊が。それが辛くて、だから医者にはなりたくないって言ってたわ。だからこそ一雄さんに助け出されたとき、沙姫には一雄さんがヒーローに見えたのね」
    後半、ちょっと忌々しそうに寿美礼が言っているのには訳があった。実は寿美礼は、大学時代に沙姫とも付き合っていたのだ。そのことは百合香も聞かされているが......。
    「まあ、父とのことは、もう許してやってください」
    「別に怒ってないわよ」と、寿美礼は拗ねて見せた。「それより......あなた、今誰かと交際してるの?」
    「え!?」
    「隠しても無駄よ」
    寿美礼は食べ終わったざるそばの器を脇に除けて、百合香に顔を近づけて小声で言った。
    「胸の下あたりにキスマークがあったわよ」
    これからは診察日の前日は控えよう――と、百合香は思った。
    「すみません......実はそうなんです」
    「相手はあなたが妊娠中だってことは知ってるの? 今はお腹も膨らんでいないから分からないだろうけど......」
    「知ってます。すべて知ったうえで付き合ってるんだけど......おばさんに、ちょっと聞いてもらいたいことがあるの」
    「あら、なァに?」
    「実はね......」
    百合香は馨が半陰陽であること、そのために子供が作りづらいことを話した。寿美礼はその話を聞くと、しばし考えた......。
    「それは......ユリちゃんは、その馨さんにとって最適の相手みたいね」
    「どうして?」
    「先ず、あなたと恭一郎君が体外受精で生まれていることは知ってるわね? 沙姫と一雄さんはずっと不妊治療を受けていて、結果として体外受精に頼るほかなかったわけだけど」
    「ええ、もちろん」
    「この際、卵子も精子も、沙姫と一雄さんのを使っているから、遺伝子的にも法律的にも、あなたと恭一郎君は二人子供として認められるわ」
    「まあ、当然だけど......私と馨が子供を作ると、何か問題が発生するの?」
    「いいえ。あなた達なら問題は生じない。だけど仮に、とある夫婦の妻が性分化疾患(半陰陽)で、夫が男性だった場合――妻の子宮では胎児を育てられないと診断されたら、その夫婦は別の女性に自分たちの受精卵を託さなければならない。いわゆる"代理母"ね。そうなると、生まれてきた子供は夫婦の遺伝子を間違いなく受け継いでいるのに、産んだのが代理母だというだけで、その子は代理母の実子として戸籍に入らなければいけないのよ。それが今の日本の法律なの」
    「ああ......なんか、似たような問題をワイドショーで取り上げてたわね」
    「そう。まあ、ワイドショーで報じてた夫婦は、性分化疾患は関係なくて、妻の方の体が胎児を育てらないから......ということだったわね。不妊治療を受けている患者さんには良く見られるケースなのよ」
    「そうなのね。うちのお母さんは子宮には問題が無かったから、受精卵を胎内に戻すことができたのね?」
    「そう。沙姫の問題個所は卵管だったから......それで、あなた達に話を戻すけど。あなたと馨さんが結婚して、いざ子供を作る場合――あなたの卵子と馨さんの精子を体外受精させて、あなたの胎内に戻せば、生まれてきた子は何の問題もなく、あなた達夫婦の子供になる。また、馨さんの卵子と、誰か提供者による精子を受精させて、それをあなたの胎内に着床させたとしても、その子はあなた達夫婦の子供として認められるのよ」
    「そっか! 私が代理母になるのね!」
    「そういうこと。しかも、あなたはセクシャルマイノリティー(性的少数者)にも理解がある。だから、馨さんにはあなたが最適な相手になるのよ」
    「......なるほどねェ......」
    沙姫はそこまで考えて、自分と馨の仲を祝福してくれたのだろうか......百合香がつい考え込んでしまうと、
    「まあ、先ずはお腹の赤ちゃんを無事に出産しないとね」と、寿美礼が言った。「出産予定日は12月の初めだからね」
    「まだまだ先の話ね (*^。^*) 」
    いろいろと楽しみが増えたようだった。

    百合香がネット小説を書いているコミュニティーサイト「サークルプレイヤー」からメールが届いたのは、その日の夕方だった。
    「"サークルプレイヤーがリニューアルされます"??」
    そのメールの内容によると、サークルプレイヤーが別の名前で生まれ変わり、新しい機能も追加されると言うことだった。
    「それに伴い、新しいサークルが立ち上がりました。詳しくはサイトをご確認ください......」
    百合香がメールを読み終わったちょうどその時、携帯に着信が入った。
    "崇原喬志"と表示されていた。
    『沙耶さんのご主人からだ......』
    そう言えば、メリアン学園で沙耶に会った時、旦那さんから話があるって言っていたことを思い出して、百合香は携帯に出た。
    「もしもし?」
    「もしもし、宝生百合香さん......いいえ、ネット小説家のユリアス先生の携帯ですか?」

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  • from: エリスさん

    2014年05月16日 11時59分49秒

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    夢のまたユメ・95

    二日後、一雄は新潟へ帰ることにした。
    恭一郎は最初、まだ東北の方が落ち着いていないこと、特に福島の原子力発電所が危ない状態だからと、福島の隣の県である新潟に帰ることは反対していたのだが、帰ることを勧めたのが誰でもない母の沙姫だと聞かされては、反対ばかりもしていられなかった。
    「いいか? 父さん。具合が悪いってちょっとでも感じたら、我慢なんかしないですぐに病院に行けよ! 無茶するなよ!」
    恭一郎が言うと、
    「心配するな! 父さんには母さんが付いてる(憑いてる?)」
    と、一雄は意気揚々と帰って行った。実際、その車の屋根の上に沙姫が乗っていて、百合香と恭一郎に手を振っていたのだが、それが見えたのは姫蝶だけだった。
    そしてさらに翌日の夜、宝生家に主立った関係者――ナミ、ユノン、紗智子と、馨が呼び寄せられた。
    「そんなわけで」と、百合香は言った。「私と馨が付き合うことになりました」
    それを素直に祝福したのはユノンだけで、紗智子は微妙な表情を浮かべ、ナミは完全に怒っていた。
    「なんで俺は断って、カールさんとは付き合うんですか!?」
    ナミが言うと、百合香は言った。
    「だから話したでしょ。私はもう男の人とは付き合いたくないって。それに、あなたとじゃ久城家が絡んできてしまうもの」
    「久城家のことは仕方ないにしてもですよ、カールさんだって男じゃないですか!」
    「いや、ナミ君」と、馨が言った。「僕は男じゃないよ」
    「ハァ?? 何言ってるんです?」
    「だからこれから」と、百合香が言った。「その説明をするために、みんなを呼んだのよ」
    百合香は馨が半陰陽(性分化疾患)であり、精神的には女性であることを説明した。
    「だから私は、女としての馨と交際することにしたの」
    「ありえない!」と、ナミは言った。「リリィさん、だまされてますよ!」
    「だまされてないわよ。ちゃんと確かめたわ」
    「確かめたって......」
    ナミが赤面して黙ってしまったので、ユノンが口を挟んだ。
    「ユリアス、もうカールと......やっちゃった?(*^_^*) 」
    「ええ」と、百合香が微笑むと、
    「まあ......」と、紗智子が赤くなった。「身重の身で、大丈夫だったの?」
    「大丈夫よ、私が立ち役だから。私、女同士の時はいつもそうなの」
    「あら、ステキ......」
    「"ステキ......"じゃないですよ!」と、ナミは言った。「紗智子さんも百合属性の人だからって、だまされちゃダメです。カールさんがどんなに女に化けてたって、本当は男なんですよ。俺、何度か更衣室で一緒になってましたけど、普通に男の中で着替えてたし、胸だってなかった! それなのに半分女だなんて、信じられませんよ!」
    「馨が男だけの空間で着替えが出来るようになったのは、これまでの経験の積み重ねによる訓練の賜物よ」と、百合香は言った。「戸籍上は男性だから、学校だって男として通わなくてはいけなかった。だから、嫌でも慣らして行かなくてはならなかったのよ」
    「でも、でもでも! そんなのおかしい...‥」
    ナミが何とかして反論しようと言葉を探していると、
    「分かったわ」と、馨が言った。「ナミ君、一緒においで」
    馨はナミの手を引いて、バスルームまで連れて行った......。
    なので百合香は、ユノンと紗智子に言った。「きっと、服を脱いで証明してあげる気ね」
    「私もちょっと興味あるけど」と、ユノンは言った。「プライバシーだから遠慮しておこう」
    「そうしてあげて」
    「それで彼――いいえ、彼女は......」と、紗智子が言った。「翔太との子供のことは、何か言ってる?」
    「まだ具体的なことは言っていないけど、馨は子供が作りづらい体だから、私に子供がいてくれた方が都合がいいんですって」
    「そうなの......彼女が、翔太の子供を自分の子として育ててくれるって言うなら、私はあなた達の交際――最終的には結婚も、反対したりはしないわ」
    「ありがとう、紗智子さん」
    「でも、馨さんが翔太の子を疎むようになったら......そうならないことを祈るけど、もし万が一そういうことになったら、子供は私が引き取ってもいいからね。私は伯母なんだから」
    「うん、その時はそうしてもらうかもね」
    「へえ、紗智子さんって」と、ユノンは言った。「焼きもちとか焼かないんだね」
    「え? なにが?」
    「だって、紗智子さんってユリアスのことが好きだからスール(姉妹)になったんでしょ?」
    「やだ、ユノンちゃんたら(^_^;) 私は百合香さんのことを人生の先輩として大好きだから妹にしてもらったのよ。恋愛対象とは違うわ」
    「あれ? そうなの」
    「ユノンちゃんは百合小説の読み過ぎよ」
    「エヘッ、ごめんなさい」
    女同士でそんな話で盛り上がっていると、しばらくしてナミと馨が戻ってきた。馨は乱れた髪を直しながら、ナミは恥ずかしそうに顔を俯いたままで......。
    「認めます。カールさんは立派に女性でした......」
    「理解してもらえて嬉しいわ」
    その二人の様子からただならぬものを察した百合香は、馨の手を引っ張って部屋の隅に連れて行った。
    「ナミになにしたの?」と、百合香が小声で言うと、
    「僕が女だって認めてもらうには、何も演技していないことを見てもらうのが一番でしょ? だから......」
    「誘惑したの!?」
    「ナミ君はパッと見、女の子に見えるから......でも、触らせてあげただけよ」
    「どの程度!?」
    百合香が多少怒り気味に言うと、馨は耳打ちでナミとの情事を説明してあげた。
    「......まあ、その程度なら......」
    「でもね」と、馨は百合香の手を取った。「僕、百合香さんの手の方が一番感じる。だから、後で同じことしてね」
    すると百合香はフフンッと笑った。「もっとすごい事してあげるわよ」
    「オオーイ! そこのお二人さァ~ん!」と、ユノンが声を掛けてきた。「こそこそとエロい話してないでよ!」
    「してないわよ」と、百合香が笑って見せた。「とにかく、他のみんなには徐々に話していくから、しばらくは私達の交際のことは、このメンバー内の秘密にしておいてね」

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