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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2012年06月22日 10時25分45秒

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    「夢のまたユメ・56」
            第3章  引き戻された現実     


     地震だ……と、百合香はすぐに思った。
     揺れは少し大きいように思えたが、恐怖心はなかった。だいたい電車に乗っている時はこれぐらい揺れるし、どうせすぐに収まると思ったからである。
     しかし、揺れはなかなか収まらなかった。
     『長いなァ……』
     この時点でも、百合香はまだ呑気に構えていた。
     そのうち、百合香からはかなり離れたところにある洋画コーナーのDVDが、棚から崩れ落ちて行く音が聞こえた。
     『揺れが収まるまで、棚からは離れた方がいいかな?』
     百合香は足もとがおぼつかないながらも、仮面ライダーコーナーから離れて、先ほどの「おまえうまそうだな」の特設棚に近い柱の所に行った。すると、今度は百合香がいるところから割と近い邦画コーナーのDVDが棚から雪崩のように落ち始めたので、邦画コーナーのすぐ裏にあるアダルトコーナー(20未満立ち入り禁止の暖簾がかかっているコーナー)から、50代ぐらいの男性客が飛び出してきた。その男性客は百合香と目が合うと気まずそうに、
     「いやあ、かなり揺れてますねェ」
     と、照れ笑いをした。
     「そうですね、ちょっと長いですね」
     と、百合香は返事をして、愛想笑いをした。
     『この人、うちの映画館にも良く来る人だ……』
     男性客もそれに気付いているのだろう。だからアダルトコーナーから出てきたこともあって、気まずくなったのである。
     男性客はそうそうに立ち去り、百合香はまだ揺れが収まるのを待っていた。
     『それにしても、長いなァ……』
     と百合香が思っていると、すぐ横の「おまえうまそうだな」が棚ごと倒れてきた。
     『ええ〜!? うまそう君が!? ……DVD割れてないかなァ』
     百合香がこんなに呑気にしていられたのは、前述したが、だいだい電車に乗っている程度の揺れしか感じていなかったからである。これは百合香がいたところが建物の地下だからだろう。当然、建物の上の方はかなりの揺れ方をしており、客も従業員も軽くパニックを起こしていた。
     しばらくして、従業員が店内を見回りにやってきた。女性スタッフが百合香を見つけて、
     「大丈夫ですか? ご気分などは悪くなっていませんか?」
     と、声をかけて来た。
     『あっ、災害時マニュアルだ』と、ファンタジアでの避難訓練を思い出した百合香は、
     「はい、大丈夫です」
     と、すぐに答えた。
     「では、揺れが収まりましたら避難いたしますので……」
     と、女性スタッフが話している間に、揺れが収まってきた。
     「では、足もとに気を付けて、外へ避難しましょう」
     「はい、お願いします」
     確かに、店の中のこの状況では、すぐには営業を再開できない――百合香はDVDを借りるのを諦めて、スタッフの誘導で一階へ上がった。
     見ると、一階のCD・DVDセールスコーナーと、その奥の書店はもっとひどいことになっていた。出口では、男性スタッフが、
     「足もとにご注意ください! 階段中央はお通りにならないでください!」
     と、言いながら、客を出口の左右の端から外へ出していた。
     「では、あちらのお出口から外へお出になってください」と、先ほどの女性スタッフが百合香に言った。「足もとが危なくなっているので、ご注意ください」
     「はい……また来ますね」
     「はい、お待ちしてます」
     たまたま地下のレンタルの客が百合香と、先刻の男性客など数人しかいなかったから、誘導もスムーズに済んだらしいが、一階から上の階の客たちは少々不満もあるらしい。なにしろ、出口が書店コーナーのも併せると2つしかないから、全員が避難するのに時間がかかってしまうのである。
     「他の出口はないのかよォ……」
     と、他の客が文句を言っている理由を、百合香は自分が出口に辿り着いた時に知った――タイル張りの階段が割れて崩れていた。
     そして、百合香が無事に外に出られたとき、上から外壁が崩れて細かい粒が落ちてきた。――それが背中にかかった百合香は、ようやく恐怖を覚えた。
     建物が崩れて、地下から出られなくなる可能性もあったのだ!?
     百合香たち客が全員外へ出たのを確認して、レンタルショップの店長が、入口のシャッターを閉める。――レンタルショップだけでなく、その両隣の店も、道路を挟んだ向かいのパチンコ屋と薬局もシャッターを閉めていた。
     店から締め出された形になった客たちは、一方通行のせいもあってなかなか車が通らない道路に溢れ出していた。みな、どうしていいか分からず、とりあえず携帯電話で誰かに連絡を取ろうとしていた。
     『そうだ、お兄ちゃんにメール……』
     この時の百合香は地震が日本列島の広範囲に及んでいるとは思いもせず、新潟県にいる父よりも、都内である秋葉原の電機量販店の店員をしている兄・恭一郎に連絡を取ろうとした。手早くメールで「私は無事だよ。お兄ちゃんは?」と入力して、送信したが……すぐに「送信できませんでした」と表示された。
     『電波は立ってるのに……』
     百合香が戸惑っていると、すぐ傍にいた同い年ぐらいの女性に、
     「無理よ、通じないわ」
     と、声を掛けられた。「いっぺんに大勢の人が携帯を使ってるから、電話回線がパンク状態なのよ。私も、さっきから子供に連絡を取ろうとしているんだけど……」
     「お子さんに……何年生のお子さんですか?」
     「もう中学生よ、中2。今頃、下校時間なんだけど……どっか、ほっつき歩いていないでまっすぐ帰って来てればいいんだけどね」
     と、その女性は肩のバッグを掛け直して、言った。「早く家に帰った方が良さそうね。あなたも、家にいた方が家族と連絡が取れるかもしれないわ」
     「ええ、そうですね。そうします」
     『そうだ、帰らなきゃ……キィちゃんが!』
     こんな日に、姫蝶を家に一匹だけにしてしまった。どんなに心細い思いをしているか知れない。
     百合香は足早に、自転車を置いていたSARIOに向かった。途中、駅前も、商店街も人で溢れていた。どこもかしこも、来ていた客をその場から避難して入口を閉じたからである。そして大概の人が、どうしていいか分からず動けなくなっていたのだ。
     百合香がSARIOに着くと、案の定ここも広場と駐輪場に人が溢れていた。外にいてもSARIOの館内放送が聞こえてくる。
     「本日は誠に勝手ながら、全店舗の営業を中止させていただきます。お客様にご案内申し上げます……」
     この分だと、3階のシネマ・ファンタジアも大変なことになっていることだろう。だが、百合香にはどうすることもできなかった。
     『ごめんね、みんな。手伝いに行けない……私には姫蝶のが大事なの!』
     実際、入館証を持ってきていない百合香が、この状態で一般客の入り口から入るのは迷惑になってしまう。ここは引きさがって自宅に帰るのが一番の選択だった。
     自転車を走らせている間も、どうやら余震があったらしいのだが、百合香はそんなことを気にしている余裕はなく、一路自宅を目指した。
     家に着くと、すぐに目についたのは3段の棚に並べた植木鉢の一つが落ちて、割れていたことだった。買ったばかりのチューリップの苗だったが、直している余裕はない。
     百合香は自転車の鍵も抜かずに、急いで家の中へ入った。
     「キィちゃん! 無事?!」
     いつもは玄関で「ただいまァ」を言っただけで、返事をしながら出て来る子が、出て来ない。
     「キィちゃん! キィちゃん、どこ!」
     百合香は玄関で靴をそろえるのも忘れて中へ入り、そのまま猫部屋へ向かった。……すると……。
     「……キィ……ちゃん?」
     姫蝶はクッションの上にいた――少し宙に浮いて。
     いや、違う。かなり薄くて見えづらかったが、誰かがクッションに正座して座り、その膝の上に姫蝶を乗せて寝かしつけていたのである。その誰かが、顔を上げて、百合香に微笑んできた。
     「お帰りなさい、百合香」
     声は聞こえなかったが、口がそう動いているのが分かった。その人物こそ……。
     「……お母さん」
     百合香が言うと、母・沙姫の姿は完全に消え、姫蝶はふわっとクッションの上に落ちた。
     その途端、姫蝶が目を覚ました。
     「にゃ! みにゃあ!」
     姫蝶はすぐに百合香を見つけて駆けてきて、ジャンプして百合香の胸元にしがみ付いてきた。
     「よしよし……怖かったね、キィちゃん」
     姫蝶をあやしながらも、百合香はまだ驚きを落ち着かせられないままでいた。
    死んだ母が、霊になって来ていた――見渡せば、玄関や台所では色んなものが落ちたり倒れたりしていたのに、この猫部屋は何も倒れていない。木を模した猫用の遊び用具も、何もかも無事である。
     「お母さん、守ってくれてたの? キィちゃんを。私が留守にしていたから?」
     百合香は、翔太との結婚が母・沙姫のことで破談になりそうになっていて、ちょっと恨みたい気持ちもあったのに、そんな自分を恥じたのだった。



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  • from: エリスさん

    2012年06月08日 11時54分03秒

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    「夢のまたユメ・55」
     「母がまだ生きているうちに、兄はお見合いをしたのよ。それで、結婚する約束を当人同士の間では決めていたんだけど、その矢先に母が亡くなってね。そうしたら、母の葬儀の時に、母の実家の……義理の母親と異母妹たちが押しかけてきて、母のことをさんざん侮辱していったのよ。母が義理の父親から受けた仕打ちを、さも母が悪いかのように……」
     「そんな……」
     「理不尽よね。母は被害者なのに……母の異母妹たちは、自分の父親が母を手込めにしていることを、周りに隠すどころか自慢するような人だったから、自分たちも父親に同じ目にあわされているんじゃないかと噂されて、それでなかなか結婚が出来なかったんだと…‥。それで母を恨んでいたの」
     「ひどいわ、逆恨みじゃない」
     「まったくね。そうやって恨む前に、じゃあどうして母を助けてくれなかったのかと思うわ……誰かが母を魔の手から救い出してくれれば、後々そんな噂を立てられずに済んだかもしれないのに。自分たちの父親の悪事を放っておいたから、自分たちに帰ってきてるのに――因果応報よ」
     百合香は当時のことを思い出すたびに、不機嫌さが表情に現れてくるのが自分でも分かって、お茶をガブガブと飲んで気持ちを落ち着かせた。
     「それで、その葬儀の時に兄のお見合い相手のご両親も来ていて、騒ぎの一部始終を見ていたものだから、調べたのね、本当のことなのかどうか。それで後日、このお見合いは無かったことにしてくれって言ってきたの」
     「……そう……」
     そのことに関しては、紗智子は意見できなかった。結局のところ長峰家も同じことをしたのである。
     「翔太は?」と、すっかりお茶を飲み干した百合香は言った。「知っているの? 母のこと」
     紗智子は、首を左右に振った。
     「そう……」
     百合香はそれだけ答えて、店員を呼んだ。「アイスのハニーアップルティーください」
     「かしこまりました」
     メニューも見ずに注文できるのは、それだけこのお店の常連ということなのだが……そんなことは気付かず、紗智子は店員が行ってしまってから、言った。
     「翔太には、このこと……言わない方がいいよね?」
     「そんなことないわよ」と、百合香は微笑みながら即答した。「翔太には何も隠すつもりはないもの。彼が知りたがることはなんでも教えて来たわ。それこそ、前に付き合っていた彼女に会わせたこともあるわ」
     「そ、そうなの?」
     「まあ、焼きもちを焼かせてみたかった……っていうのもあったけどね、あの時は。そうすれば、私を手離したくないって、思ってくれるはずだから」
     「百合香さん……」
     「作戦は成功したんだけどなァ……翔太は、本当に私を独占しようとしてくれたから……」
     だんだん悲しくなるのを誤魔化すように、百合香が悪びれて行くのを、理解できない紗智子ではなかった。
     「駄目よ、自分を悪く言わないで」
     「あら、これが本当の私よ。本当は計算高くて……」
     「違うわ……」
     そこで店員がハニーアップルティーを持ってきたので、話は中断された。
     百合香はグラスを手に持つと、ストローを避けて、直接グラスに口を付けた。ごくごくっと喉を鳴らしながら飲むと、ふうっと大きなため息をつく……。
     「うん、甘くて美味しい」
     「あっ、甘いんだ」
     ガムシロップも何もいれていなかったのに……初めから蜂蜜が入っているから「ハニー」なのだろう。
     「一口飲んでみる?」
     百合香はストローの傾いている方を紗智子に差し出した。なので、紗智子はストローから飲んでみた。
     「……?」
     甘……過ぎる。紗智子には蜂蜜が濃すぎる感じだった。
     それを察したのか、百合香は言った。「今の私にはそれぐらいがいいのよ。甘いのは頭の疲れを解消してくれるから」
     「百合香さん……」
     「今日の私はいろいろと考えてしまって、疲れてしまっているのよ。だから、あまり考えないようにするわ。後は、長峰家の皆さんにおまかせします。私は、どんな答えでも受け入れるから」
     百合香はそういうと、伝票を手に取った。「出ましょう」



     紗智子が家に帰ると、翔太が夕飯を食べていた。
     「お帰り、姉ちゃん」
     まだ口の中にご飯が残ったまま翔太がしゃべると、紗智子は少し間があってから言った。「あんた、今日は早いのね」
     すると、緑茶で口の中の物を流し込んでから、翔太は言った。
     「仕事が早く終わったから、定時で上がってきた。だからリリィに連絡取って夕食に誘いたかったんだけど、携帯がつながらなくてさ。仕方ないから家に帰ってきたら、リリィは半日休暇を取った姉ちゃんが映画に誘ってるって、母さんから聞いてさ」
     「そうだったの……」
     そこへ翔太のお味噌汁を持って真珠美が現れた。
     「はい、お味噌汁のお代わり……きっと百合香さんは、映画館の中では携帯電話の電源を切らなければいけないから、そのまま、映画が終わっても電源を入れるのを忘れているのよ」
     「だと思うから、姉ちゃんも帰って来たことだし、食事終わったら自宅の電話の方に連絡入れてみるよ」
     翔太が言った、ちょうどその時だった。翔太の携帯から「W-B-X(仮面ライダーWの主題歌)」が流れた。
     「あ、リリィからだ」
     翔太はすぐに電話に出て、席を立って廊下に出た。
     「うん、掛けたよ。いや、仕事が早く終わったからメシに誘おうとおもったんだけど……」
     翔太の話し声が遠ざかるのを聞いてから、真珠美は紗智子に言った。
     「あまり元気がないわね」
     「お母さん……」
     「例の話が出たの?」
     なので紗智子は首を縦に振った。
     「そう……」
     「もうね、百合香さん、覚悟が出来てるの……」
     「そうね。あの方はそうゆう方ね」
     「お母さん、私……」
     「分かってるわ」と、真珠美は娘の肩を抱きしめた。「大丈夫よ。これからも、お友達としてなら付き合っていけるわ、きっと」
     「うん……」
     その時、翔太の声で、戻って来るのが分かった。
     「うん、じゃあ、また明日行くから。え? 食べたいものは……」
     その声を聞き、真珠美は紗智子を自分の部屋へ行かせた。「涙でメイクが崩れてるから……」
     「あっ、うん……」
     紗智子は翔太が戻って来る前に、廊下に出て、反対側にある階段から自分の部屋へ上がった。


     それから一週間、長峰家は――と言うより、真珠美は何の行動も起こさなかった。
     土・日・月曜日は百合香がシネマ・ファンタジアの激務をこなしていることを知っていたし、火曜日は……休みであっても、次の日の水曜日・レディースデイのために体調を整えていることも知っているので、この日も邪魔を仕度はない。だから、ネット小説を書くために2連休を取っている木曜日と金曜日のうちの、金曜日の午後だったらお邪魔をしても差し支えないだろうと、真珠美は考えていた。
     その間、勝幸には一度だけ急かされたが……真珠美が急ぎたくない気持ちを勝幸も理解していたので、それ以上は何も言わなかった。
     そして、とうとう金曜日――3月11日の14時になった。
     『約束はしないで訪ねてみよう』と、真珠美は考えた。『会えなかったら会えなかったで、またの機会にすればいいわ』
     真珠美は出掛ける仕度を始めた。


     一方その頃、百合香はネット小説を更新し終えて、炬燵に向かったまま、グイッと体を伸ばして深いため息をついた。
     「さて、そろそろお買い物に行きますか!」
     今日はレンタルショップがDVDレンタルを「4枚で1000円」で貸し出してくれる日だった。百合香はまだ見たことがなかった「仮面ライダーブレイド」をこの機会に借りるつもりでいた。
     お出かけ用の服に着替えると、百合香は猫部屋へ行って、
     「キィちゃァ〜ん、お買い物に行くから、雨戸占めてくよォ」
     と、窓辺で丸くなって寝ていた姫蝶に声を掛けた。
     「ふにゃ?」と、姫蝶は寝ぼけた声を上げたが、ちゃんと目を覚ます前に百合香はさっさと雨戸を閉めてしまった。
     「日向ぼっこしてたところ、ごめんね。お姉ちゃん、お出掛けしてくるから。キィちゃんはお留守番しててね」
     「みにゃあ……」
     「はい、行ってきます」
     百合香は自転車に乗って出掛けた。
     自転車に乗りながら、今日のお買いものコースを考えて、最終地はシネマ・ファンタジアが入っているショッピングモール・SARIOのペットショップだと決めた百合香は、自転車をSARIOのペットショップに近い駐輪場に置いた。
     先ずは駅に近いレンタルショップへ行った。
     レンタルショップと言っても、CDとDVDの販売店もくっ付いている。一階が販売店で、地下がレンタルショップになっていた。
     百合香は迷わず仮面ライダーコーナーに行こうとして……その手前にあった特設棚のDVDに目が留まった。
     「おまえうまそうだな」のDVDがお勧めとして10枚ほど並んでいた。
     『どうしよう……これ、いい話だったんだよなァ。でも新作は三日以内に返さないといけないし……でも、翔太も好きそうだしなァ……明日来るし、どうしようかなァ……』
     そこでしばらく悩んで、やっぱり仮面ライダーコーナーへ行って、ブレイドを探すことにした。
     そして、またそこで悩んでしまう。
     『ディケイドも、もう一度見たい感じが……』
     ブレイドなどの初期の仮面ライダーは全巻並んでいるのだが、ディケイドや電王などの最近の仮面ライダーは人気が衰えていないせいか、いい感じに「貸し出し中」になっている。そこが余計に気になってしまうのだった。
     『ここは……間を取ってカブトを見るべきか……』
     と、変な理屈で悩んでいるうちに、時計は午後2時――3月11日の14時46分を指そうとしていた。
     体が、揺れるのを感じる。
     え!? と思った時には、DVD棚が音を立てて揺れているのに気付いた。
     この時、大惨事につながる大きな地震が発生していたのである。



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  • from: エリスさん

    2012年06月01日 12時23分46秒

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    「夢のまたユメ・54」
     百合香が初めて友達を連れてきたことで、シネマ・ファンタジアのスタッフ達が興味津々で百合香たちのことを眺めているのが分かった。
     注目されて恥ずかしさを覚えた紗智子は、百合香に言った。
     「どうして、こんなに注目されるの?」
     「私、映画を見るときはいつも一人なのよ。仲のいい友達って今はファンタジアのスタッフしかいないから、一緒に映画を見ようにも大概仕事が入っていたりしてね」
     「シフトがみんなバラバラだから、お休みが合わないのね」
     「そうなの。たまにお休みが合っても、むしろそうゆう時は映画より他の遊びを選んでるし。だから、映画は一人で見てるんだ」
     「学生時代の友達とかは?」
     「かなり疎遠になってるわね、卒業してからは。専門学校のころの友人とは手紙やメールで連絡取ってるけど、向こうはもう結婚して自由が利かなくなってるし。――OL時代の友人は、もうこっちからは連絡も取りたくないから」
     「退職した時の経緯から?」
     「ええ、それもあるし、OLの時は競争社会だったから、表面的には仲良くしてたけど、結局はライバルばっかりで。だから、今でも会いたいって思える人、片手で数えるほどしかいないわ」
     「そう……ああ、でも。私も会社で仲のいい人って、そんな感じかも」
     「社会に出ちゃうと多かれ少なかれそうなるわよね。その点、ファンタジアでは社員以外はみんなパートかアルバイトの扱いだから、出世するわけじゃないから競争する必要もなくて、みんなと仲良くできて楽しいわ」
     「それじゃ、百合香さんが誰かを連れて映画を見に来たって言うのは、それだけ珍しいことなのね」
     「そういうこと。あと、誤解されちゃってるかも」
     「誤解?」
     「私がバイだってことは知ってるでしょ?」
     「……え? そういう誤解なの!?」
     興信所の調査報告では、当然の如く百合香が過去に女性と交際していたことは書かれていた。そして本人もそのことを隠していないことも――つまり、周りはみんな知っている。
     「私がこうゆう人間で、紗智子さんが美人だから、そうゆう妄想が生まれちゃうのよ。大丈夫、すぐに誤解を解いてあげる」
     百合香はそう言うと、スタスタと入場口に歩いて行った。今はどこのシアターも入場時間になっていないから、アナウンス担当のぐっさんと、ロビーに並べられているチラシを補充しようと大量のチラシを運んできたユノンしかいなかった。
     「お疲れ様ァ(^o^)丿」
     「おお、お疲れ、リリィ。なに? 今日はデート? この浮気者(^m^)」
     と、ぐっさんが言ったので、
     「違うわよ(^_^;) 紹介するね、翔太のお姉さんの紗智子さんよ」
     「え!? ミネのお姉さん!」
     「あっ、言われて見れば」とユノンも言った。「眼鏡かけたら似てるかも」
     「眼鏡なら……」と、紗智子はバッグから眼鏡ケースを出して、青いフレームの眼鏡をかけて見せた。「うちは家族そろって視力が弱いから」
     「うわァ……ほんとにそっくり」
     とユノンが感嘆していると、ぐっさんが言った。
     「これは間違いなくミネのお姉さんだ。初めまして、うちのリリィがお世話になってます」
     「こちらこそ、うちの愚弟がお世話になりました」
     「今日は何を見るんですか?」
     「ナルニアを」
     「ナルニアですか……」と、ぐっさんは言ってから、百合香の方を向いた。「3Dならもう上映始まってるけど?」
     「知ってるわよ。だから、この後の通常上映版を見に来たの、字幕で」
     「どうせなら3D版を勧めなよ、商売っ気ないなァ」
     「それは来週の“塔の上のラプンツェル”でね。紗智子さんは翔太と一緒で視力が弱いから、映像が激しく動く映画だと、3Dで見たりしたら酔っちゃうかもしれないから」
     「ミネのお姉さん、まだ3Dの経験は?」
     「ないの」と紗智子は答えた。「翔太がここでバイトしていた時には、まだ3D上映ってなかったでしょ? だから興味も湧かなかったの」
     「そうなんですか……でも、今回のナルニアって動き激しかったかなァ……?」
     「予告編を見ている限りでは」と百合香が言った。「不思議な動物たちが飛んだり跳ねたりしてたし、船で荒波を渡ったりもしてたから、紗智子さんでも大丈夫って安心が持てなかったのよ」
     「そうだよね」とユノンが言った。「それに、初めて3D見るなら、アニメ作品の方がいいですよ。いろんな仕掛けがしてあるし」
     そしてユノンは、手に持っていたチラシが重たく感じてきたので、その場を離れてチラシを並べに行った。
     あまり長く入場口に溜まっているわけにもいかなかったので、百合香と紗智子もその場を離れた。
     「何か食べる?」
     百合香は売店を指差しながら紗智子に言った。
     「お勧めは?」
     「私はフレーバーポテト(フライドポテトにフレーバー(粉末のソース)で味付けがしてある)が好き。チーズ味ね」
     「ポテトもいいわね……ポップコーンでフレーバーはないの?」
     「あるわよ。ポテトと一緒で、チーズ味とカレー味とコンソメ味とブラックペッパーベーコン味と」
     「最後の凄いわね。ブラックペッパーベーコン?」
     「うちの人気メニューよ」
     「じゃあ、私はそれにする」
     「それじゃドリンクはMサイズにしないと。喉が渇いちゃうから」
     二人は一緒に売店に並んだ。


     映画を観終わった二人は、下の階の喫茶店に入った。
     百合香がアイスのアセロラティーを注文したのに対して、紗智子はホットのミルクティーを注文する。
     「百合香さんが冬でもアイスを注文するって、本当だったのね」
     と、紗智子が言うので、
     「翔太に聞いたの?」
     「そうよ。リリィはいつもデートの時はアイスティーばっかり頼んでて、体が冷えたりしないか心配になるって言ってたわ」
     「熱いのはゴクゴク飲めないから飲みづらいのよ。私、喉が乾燥しやすい体質だから。でも、味噌汁とかシチューとかは熱いのが好きなのよ。ふうふうしながら食べるから大丈夫みたい」
     「飲み物と食べ物とじゃ、好みが変わるってことね。飲み物だからこそ、ごくごく飲みたい」
     「そうそう」
     「猫舌ってことじゃないみたいね」
     「食べ物だったら結構熱いのも大丈夫だもの」
     「なるほどねェ〜」
     「それより、今日のナルニアどうだった?」
     「そうね〜〜〜」
     紗智子が答えに迷っているうちに、注文したものが届いた。紗智子はそれを一口だけ飲むと、こう言った。
     「まあまあかな」
     「そうね、まあまあね」と、百合香は苦笑いをしてから「でも、前作の方が良かったわ」
     「それは私も同感」
     二人は互いに笑い合って、また一口お茶を飲んでから、百合香が言った。
     「まあ、面白い映画は次の“塔の上のラプンツェル”に期待しましょう」
     すると……紗智子が口籠って、何も言えなくなった。
     百合香は、すぐに事情を察した。
     「次は、一緒に来れそうにないのね」
     「……うん……忙しいっていうか……」
     紗智子のその答えに、百合香は苦笑いをしながらため息をついた。
     「私の身辺調査が終わったようね」
     百合香の言葉に、紗智子はハッとする。「百合香さん……」
     「分かっているわ、母のことでしょ?」
     百合香は少し多めにお茶を飲んで、一息ついてから言った。
     「兄も、同じ理由で破談になったのよ……」



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