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  • from: エリスさん

    2016年01月22日 00時36分31秒

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    夢のまたユメ・116

    馨の転職の話し合いも済んで、彼女は腕時計で時間の確認をした。
    「百合香さん、まだお時間ある?」
    「ええ、大丈夫よ」
    「それじゃ......うちの両親に会ってもらってもいい?」
    「ご両親に?」
    想像もしていなかったことで、百合香は戸惑った――が、いつかは会うつもりだったから、これは良い機会だと思った。
    「いいわ、会わせて」
    「本当にいいの?」
    「会ってほしいって言ったのは、あなたよ」
    「そうだけど......会ったら、本当にわたしと結婚しないといけなくなるよ?」
    「それでいいじゃない」
    と言った百合香の笑顔がとても爽やかだったので、馨も安心して彼女を自宅に案内した。
    小坂家に着くと、女装した馨にそっくりの母親と、なかなかの美男子である父親が待っていた。前もって話を聞いていたのだろう、二人は百合香のことを快く迎え入れてくれた。
    「本当に、うちの馨でよろしいんですか?」
    馨の父が百合香に聞くので、逆に百合香も聞いた。
    「こちらこそ、私のような身重の女で宜しいのでしょうか?」
    すると馨の母が、身を乗り出すようにして「その方がいいんです!」と言った。
    「馨からお聞きかと思いますが、馨は普通には子供の作れない体です。ですから、既にお子さんのいらっしゃる方と結婚させてもらえれば、この子も人の親になれますし。だから、あなたのような人と巡り会えて、馨は本当に幸運だと思っています」
    「そう思っていただけて、私も有難いです。ですが、その馨に子供が作れないという点ですが......」
    百合香は座り直しながら背筋を伸ばし、二人の方をしっかりと見た。
    「私が診てもらっている産婦人科の先生は、母の友人でもあり、うちの家族はみんなお世話になった方です。というのも、私の両親は不妊治療を受けていまして、兄も私も体外受精で生まれてきたんです。その先生のお話では、馨のような性分化疾患の方でも、体外受精などの医学的方法を用いれば、子供を作ることは可能だと言っています。ですから、無理に子持ちの女と馨が結婚する必要はないんです」
    百合香がそんなことを言い出すとは思ってもいなかったのだろう。馨の両親は呆気に取られていたが、しかし、それでも父親はふと気づいて言った。
    「そういうことに理解のある人ではないと駄目なんです」
    「そうです」と、母親も言った。「自分はまったく問題の無い体なのに、馨のために一緒に不妊治療を受けてくれるような人ではないと......あなたはそういう方だと、いま完璧に分かりました」
    そして両親は揃って百合香に頭を下げた。
    「どうぞ馨のことを、よろしくお願いします」
    なので百合香も頭を下げた。
    「不束者(ふつつかもの)ですが、どうぞよろしくお願いします」
    その後、宝生家の事情で馨には婿養子に来てもらうことや、百合香の母・沙姫の事情なども話して理解してもらった。
    とにかく馨の両親は百合香のことを有難がっていた。普通なら我が子の結婚相手としてはかなり問題のある百合香を、ここまで寛容に受け入れてくれるのは、やはり自分たちが馨のことを五体満足に産んであげられなかったことへの罪悪感なのだろう。
    馨がトイレに行くので席を立った間に、母親が百合香に言った。
    「普通の子と違うあの子と、本当にこの先もやっていけますか?」
    「馨は普通の女の子と大して変わりませんよ」と、百合香は言った。「むしろ私好みの素敵な女性です。だから、私が彼女を手離したくないんです」
    百合香の言葉で、母親は本当に安心したようだった。
    そろそろ夕方になるので、百合香は帰ることにした。
    「バス停まで案内するね」
    馨は女っぽい服から男らしい服に着替えて、百合香を案内してくれた。
    『男らしい馨は久しぶりに見たけど......普通にイケメンなのよねェ......』
    百合香はそんなことを思ってみる。そもそも美形だったからこそ、女装させても違和感なく綺麗になれたのだ。これも馨の幸運なのだろう。
    馨に案内されるままに付いてきたが......どうもバス停のある大通りからは離れて行っているようだった。
    「馨、本当にこの道で合ってるの?」
    「ごめん......バス停には行かないよ」
    「え!?」
    「さっき、電話して待ち合わせしたんだ」
    馨に案内されて来た公園に、何故か翔太が待っていた。
    「うちの両親にもミネさんのことは話してあるから......」
    馨はそう言うと、百合香の手を翔太の手と握らせた。「だから後は、二人に任せるよ」
    「馨......」
    百合香が呼び止めるのも虚しく、馨は帰ってしまう。
    そして翔太は、握った手を引いて、彼女を案内した。
    「行こう。あいつの粋な計らいを無駄にしたくない」
    「......うん......」
    小さな罪悪感が百合香の胸をチクリと刺したが、それよりも翔太の傍にいられる幸福感で胸がいっぱいだった。

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