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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2012年12月07日 13時51分34秒

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    夢のまたユメ・74

    次の日。
    シネマ・ファンタジアに行くためのエレベーター前は超満員になっていた。エレベーターが動き出す時間(つまりファンタジアがオープンする時間)まで、あと一分ある。エレベーターの横には階段もあるのだが、そちらの扉も閉められていて、警備員が立っていた。
    百合香は『多少出遅れてもいいから、エレベーターで行こう。転んだらお腹の子に危ない』と思いながら待っていた。
    そして時間になり、一斉にエレベーターが開いた。案の定、お客たちが我先にと走り出し――それでも百合香はゆっくりと歩き出した。
    エレベーターを一台見送って、百合香が三階のファンタジアについた頃には、チケット売り場前はかなり並んでいた。それでも百合香は慌てずに歩いていると、途中で後藤に会った――マツジュンの彼女にして戦隊ヒーローファンの後輩である。
    「あっ、リリィさん! 流石です、初日に来たんですね!」
    「うん、今日じゃないと欲しいキャラが売り切れちゃうから」
    「ですよね!」
    「それじゃ、また後で」
    「はい、待ってます!」
    百合香がそれほど慌てていないのには、理由があった。「レッツゴー仮面ライダー」の上映時間まで、あと40分もあるからだ。しかも上映シアターは450人が入れる10番シアター。これだけお客が押し寄せていても、朝一の上映会なら絶対に満席になるはずがない。おそらく後ろの席から売れて行くから、残るのは前の方の席だろうが、それでも前方ブロックでも見やすい席というのを百合香はスタッフでありながら常連客でもあるので熟知している。
    20分後、チケット売り場レジまで辿り着いた百合香は、ゆうゆうとベストポジションの席――中央ブロックの中でも前の方の通路側を前売り券と交換することが出来た。
    『さてと......それじゃストアに......』
    むしろ大変なのはストアでキャラクターグッズを買うことだった。なにせ、商品棚の前に子供たちが群がって、なかなか選びに行けないのである。
    それでも、子供たちの関心の品が「オーメダル」だったので、それよりちょっとだけ離れた位置にあったチャームコレクションの前は、わずかに隙間が出来ていた。百合香はそこにひょいっと入り込んで、まだ誰も手を付けていない箱を見つけて、手を伸ばした。
    『作戦通りにいけば......お願い、Wよ我が手に!』
    その他にもいくつかと、兄・恭一郎に頼まれたものを見つけ出して、両手に商品を抱えてレジに行くと、そこにナミがいた。
    「あっ、おはよう。こっち手伝ってたのね」
    「はい、チケットがご覧のとおり人手が足りないんで......って、かなり買いますね(^_^;)」
    「うん、あとパンフレットを通常版と豪華版ちょうだい」
    「ハイハイ......」
    ナミが商品のバーコードをスキャンして会計を出すと......。
    「9,850円になります!」
    「はい、クレジットカードで」
    「従業員がクレジットカードで買い物するって、リリィさんが初じゃないですか?」
    「うっちゃい(うるさい)! 早く勘定して!」
    「ハーイ......」
    ナミはクレジットカードを受け取ろうとして、そのまま手を止めて、百合香のことを見つめた。
    「どうしたの?」と、百合香が聞くと、ナミは言った。
    「リリィさん、どうして目が赤いんですか?」
    「えっ......あっ......」
    どうして気付かなくてもいいことを気付いてしまうんだろう、この子は。後藤だって気付かなかったのに......。
    「ちょっと、遅くまで起きてたから......」
    「......そうですか?......見てる間、寝ちゃわないでくださいね」
    「大丈夫よ」
    百合香は商品とクレジットカードを受け取って、後は何も言わずにシアターへ向かった。

    映画のラストがとても感動的だったうえに、エンドロールもとても凝っていたので、終始大満足で百合香は10番シアターから出てきた。
    本来ならこのまま食事をして帰りたいが、水道水が飲めないからお店に入るわけにはいかない。
    『そうだ、買える前に......』
    百合香はロビーのトイレ内にあるパウダールームに入った。そこで、四つ買ったチャームコレクションを開けてみることにした。
    『もしWが入ってなかったら、箱買いしよう......』
    先ず一つ目は――
    『1号? 2号? 私じゃ見分けつかないなァ。まあ、これはお兄ちゃんにあげよう』
    二つ目は――
    『あっ、クウガだ。クウガはお兄ちゃんが好きだから、買い取ってもらおう(^o^)(只ではあげない)』
    そして三つ目を開けようとしていた時、後藤が箒を持って入ってきた。
    「あっ、リリィさん!」
    「後藤ちゃん、お疲れ。定期点検ね」
    「はい。なにやってるんですか?」
    「買ったチャームコレクションの中に、Wが入っているかどうか確認してる」
    「ああ、中身見えませんものね。それで、どうでした?」
    「あと2つあるんだけど、まだ出て来ない」
    「へえ、どれどれ......」
    と、興味深そうに後藤が寄ってくる。
    「こらこら、仕事中でしょ(^_^;)」
    「固いこと言わないで、次開けてくださいよ」
    「そうね......さてと......あっ!」
    「出ました!?」
    「ううん。でも、ディケイド!」
    「あっ、凄ォい!」
    ディケイドはWの前の年に放送していた仮面ライダーである。歴代仮面ライダーに変身できる特殊能力を持っているため、かなりの人気ライダーだが......。
    「嬉しいけど、ディケイドが出たってことは、もうWは出ないかな? なんせ一年違い......」
    「何言ってるんですか、もう一つあるじゃないですか。次行ってみましょう!」
    「そうね......では......」
    百合香は最後の一つを開いて見た。すると、裏返しの状態で出てきたが、それだけで百合香はすぐにそれが何か分かった。表に返すと、体の中央から緑と黒に色分けされた、仮面ライダーW・サイクロンジョーカーが現れた。
    「き、キタ―――――――――!」
    「おめでとうございます!」
    「良かった、これで箱ごと買わなくて済んだわ」
    「箱買いするつもりだったんですね(^_^;) だったら、本当に良かったですね。もう、その商品、売り切れましたよ」
    「え!? そうなの!?」
    「オーメダルが真っ先に売り切れたんですけど、続いて他のコレクション物も」
    それを聞いて、映画を見る前に買っておいてよかった、と、つくづく百合香は思うのだった。流石は40周年記念作品のキャラクター商品である。

    百合香が簡単に買い物を済ませて駐輪場に行くと、百合香の自転車の所で誰かが待っていた。
    「え!? ナミ?」
    待っていた人物が振り返ると、間違いなくナミこと池波優典だった。
    「なんで? 仕事は?」
    「今日は午前中だけの勤務だから、さっき終わったばかりです。それで、いつもリリィさんが自転車停めてる場所に来たら、まだあったから、待ってたら会えるかなって思って......」
    「あっそうなの......なにか用?」
    百合香が言っている間に、ナミは近寄ってきて、百合香の目じりに触って来た――ファンデーションをこすって落とすと、赤くカサカサな皮膚になっているのが分かる。
    「やっぱり......普段メイクなんかしないリリィさんがファンデーションなんか塗ってるから、変だと思ったんだ。昨日、泣き明かしたんでしょう?」
    「もう......どうして、あんたって子は......」
    百合香はナミの手を離させた。「せっかく、一番好きなことをして、辛いことを忘れようとしているのに......」
    「すみません......そっか、だから今日の大量買いだったんだ」
    「ああ、それは違うわよ。半分は兄の頼まれ物」
    「でも5,000円分はリリィさんの分でしょ?」
    「そうだけど......」
    「何があったんですか?」
    「......歩きながらでいい? 生もの買っちゃったから、早く冷蔵庫に入れたいの」
    「家まで送りますよ。だから、ゆっくり話してください」
    「うん......」
    ――実は昨夜、もう翔太と別れ話をしたのである。
    翔太は「仮面ライダーはいつ見に行く?」と楽しげなメールをくれたのだが、百合香が、
    「もう、翔太とは一緒に見に行けない」
    と、返信をしたので、翔太が仕事終わりに宝生家を訪ねてきた。
    当然、どうして一緒に見に行けないのか? という話になる。
    そこで百合香が別れ話を切り出した――母・沙姫の事で、長峰家から交際を断られたからと。
    だったら自分が長峰の家を出ると翔太は言ってくれたが、それを百合香が断った。
    後々、禍根を残すような結婚はしたくない――という風に言ったが、本心は長峰家の人々のことを考えての事だ。そんなことは翔太も察していて、彼は絶対に引き下がらないつもりで百合香を説得した。
    そこで恭一郎が帰ってきて、翔太を外へ追い出した。
    「どんな生まれ育ちであろうと、母さんは俺たちを産んでくれた母親だ! その母さんを侮辱する奴らの所になど、俺の大事な妹を嫁がせられるか!! 二度とこの家には来るな!! 二度とな!!」
    恭一郎が罵倒してくれたことで、なんとか翔太は帰ってくれた。
    「......というわけで、私の結婚は破談となりました」
    と、百合香はつとめて明るく言った。
    その反対で、ナミは悲しみにくれて、半泣きだった。
    「もうっ、なんであんたが泣くのよォ」
    「だって......リリィさんが可哀想で......」
    「ホントにもう......」
    ちょうど人通りの少ない歩道だったこともあって、百合香は自転車を右手で支えたまま、左手でナミの頬に触れた。
    「はい、泣き止んで」
    「うん......」
    ナミは百合香の手を取って、頬から離させると、そのまま両手で握った。
    「リリィさん......だったら......俺と結婚しませんか?」
    「え!?」
    突然の事で、百合香は心臓が飛び出るほどびっくりした。
    「な、なに言ってるの?」
    「俺なら、リリィさんのお母さんの事なんか気にしませんよ。再従姉弟だし」
    「そうかもしれないけど、良く考えてね、こうゆう事は。あんた今、私を慰めようと思って言ってるでしょ?」
    「いけませんか?」
    「いけないでしょ(^_^;) それに......私、妊娠してるよ」
    「え!?」
    ナミはそう言ったまま硬直した――それはそうだろう。自分以外の男の子供を妊娠している女と、結婚するとなると躊躇するのは当たり前のことだ。
    「もう、ここでいいわ。ありがとう、送ってくれて......」
    百合香はナミから離れて、自転車に乗った。「明日、また仕事でね!」
    「あっ、はい......お疲れ様でした」
    「うん、お疲れ!」
    百合香は勢いよく自転車をこぎ出した。
    ナミは、そのまましばらく立ち竦んでいた......。

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