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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年02月15日 12時26分19秒

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    ようこそ! BFWへ・3

    「さてと、それじゃ......」
    東の街の女王・北野真理子は言った。「手始めに私たちのコラボといきますか?」
    「五大女王で?」
    と、南東の街の女王・流田恵莉は言った。「いいんじゃない。私は歌えばいいのかな?」
    「もちろんよ、エリー。あなたの美声を聞かせて」
    「私は無理よ、マリコ」と南の街の女王・武神莉菜は言った。「私の芸術は舞踊だけなんですもの、あなたたちのロックには合わせられないわ」
    「それじゃ、リナは見学するとして......裏方のみなさん、楽器用意して! ドラムスは3セットね!」
    マリコのその言葉を聞いて、ん? と北の街の女王・佐保山郁は思った。
    「3セットって、マリコ! 私も勘定に入っているの!?」
    「当然でしょ。あなたが出来る楽器は?」
    「ドラムスとパーカッションでしたけど、それは過去のことよ! 私は中学生の時に右手首故障して、それ以来、打楽器全般から手を引いたって――御祖の実体験そのままの設定があるから、もう出来ないのよ!」
    「大丈夫よ、ここは想像の世界なのだから、今だけやってまた手首を痛めても、私たちが治してあげるわ」
    「いえ、ですから、そういう設定があるだけで、物語の中で実際に私がドラムスを叩いてるシーンはないので、本当にできるかどうかなんて分からないんです!」
    「あなたはどう思う? アーサ」と、真理子は北東の街の女王・水島有佐の方を向いた。「あなたはカール(郁)の親友だから、今までの彼女を見てきて、出来るかどうか判断できるのじゃない? 同じドラマーとして」
    「いやまァ......」と有佐は言った。「カールは、リズム感はありますけど......」
    「はい、決定」
    と真理子が手を叩いたので、郁は莉菜にすがりついた。
    「リナァ~~! マリコがいじめるゥ~~!」
    「はいはい、くじけちゃダメよ、カール」と莉菜は郁の背を撫でた。「もう、マリコったら。無茶ぶりはやめてあげて。いくらカールが、忘れ去られた私たちと違って、今でも他の作品にゲスト出演しているからって、僻(ひが)むなんていけないわ」
    すると真理子は「フンッ」と向こうを向いてしまった。
    「ねえ、マリコ。久しぶりにJunoの演奏を聴きたいわ。あなたのバンドのメンバー、来てるのでしょ? やってよ」
    と、莉菜は郁から離れて、真理子に歩み寄りながら言った。「エリーとアーサとカールは、芸術学院シリーズのキャラクターでもあるのだから、そっちのメンバーで何かやって見せて」
    「ああ、だったら!」と恵莉が言った。「あれやりましょ。"キャバレー"の第5場。ステージでショーを見せるシーン。私は出演してなかったけど、あの歌なら歌えるわよ。演奏はアーサのBad Boys Clubで」
    すると郁は大きく頷いた。
    「それ行こう! 絶対それがいい! もう、それで決まり!」
    「それじゃ、俺たちも出番ですね!」と、芸術の町の町長・草薙建が手を挙げた。「住民総出でいきますか!」
    「そういうことだから」と莉菜は真理子の肩を叩いた。「よろしくね、マリコ」
    真理子は気まずそうだったが、
    「まあ......リナがJunoを見たいと言うなら......」
    「うん、お願いね」
    真理子はその場から離れ、自分のバンドのメンバーを呼びに行った。
    Junoが演奏している間、芸術学院シリーズの面々は、舞台裏で自分たちのステージの準備を始めた。
    「竹林三姉妹も手伝ってくれるだろ?」と建は三つ子の姉妹に声を掛けた。「あなた達が入学する前に上演した舞台だから、知らないだろうけど」
    「いいえ」と長女の竹林愛美子(たけばやし えみこ)は言った。「私たち、客として見に来てましたから、知ってますよ」
    「あっ、そうなんだ。そりゃ好都合。実は、えっちゃん(愛美子)にはアヤ姉ちゃんの代役をやってもらいたいんだよな」
    「え!? 北上先輩の!?」
    「そう。姉ちゃん、別の用事で今いないんだ」
    「ええ、伺ってますが......北上先輩の役って、あの真っ赤なチャイナドレスで踊ってた、佐保山先輩の相手役でしたよね?」
    「うん。出番多いけど頼むよ」
    「いや、出番が多いのはいいんですけど......確か、あの役って......佐保山先輩に抱き留められて、スリットの中に手を入れられますよね......」
    「ああ、入れてるね」
    と、建が言った時、ちょうど郁もやってきた。
    「入れるだけじゃなくて、撫でてるけど」
    そこで、愛美子の彼氏である榊田祐佐(さかきだ ゆうすけ)は「え!?」と驚いた。
    「あの、スリットって......チャイナドレスの太ももの割れ目のことですか?」
    「そうよ」と郁は言った。「それ以外にどこがあるの?」
    「つまり、先輩が撫でているのは、おしりですか?」
    「そうゆうこと」と建が言った。「いやあ、あの時のアヤ姉ちゃんは、演技でやってるとは言え、色っぽいよがり方してましたよねェ」
    「あら、演技とは失礼ね。本当に感じさせてたのよ、私のテクニックで......」
    と郁が言った時、祐佐は愛美子の前に立ちはだかった。
    「絶対だめです! えっちゃんの体に厭らしいことなんかさせません!!!!」
    「あらあら」と郁は苦笑いをした。「女優を目指す えっちゃんに、そうゆう制約を強いるのはどうなのかしら?」
    「えっ......ええっと......」
    祐佐だけではなく、愛美子も頭をひねって悩みだしてしまったので、郁はクスクスッと笑い出した。
    「いいわ。じゃあ今回は、腰を抱くだけにしてあげる。それならいいでしょ?」
    「あっはい......いいえ!」と愛美子は言った。「本来の振り通りにしてください。私、やります! 女優ですから!」
    「そう? じゃあ、よろしくね。――タケル、振り付け指導してあげて」
    「はい、カール姉さん」
    郁は、後は後輩たちに任せて、控室へ行った。そこには、先ほどまで郁子が横になって休んでいた座布団と、膝掛けが、きちんと揃えられて置かれていた。
    テーブルに飲みかけのペットボトルが置いてある......アールグレイの紅茶ということは、間違いなく郁子の飲み残し。
    郁はそれを手に取って、蓋を外すと一気に飲み干した。
    「アヤ、大丈夫かしら......」
    いろいろな意味で心配する郁だった。

    郁子が〈神々の御座シリーズ・人間界の町〉に着くと、そこは高い鉄筋の城壁で囲まれていた。
    「すごいね......」と、車を運転してきてくれた祥が言った。「これが一瞬のうちに現れたって、東の街さまは言ってたけど」
    「ここの住人の皆さんは、ただ者じゃないから......」
    郁子は城壁を見渡して、ようやく入口を見つけた。「たぶん、あそこだわ」
    すりガラスの横開きのドアがあった。その前に立つと自動ドアになっており、二人は簡単に中に入ることができた。
    中は銀行のATMを思わせる作りになっていた。暗証番号を打ち込むコンピューターが一台置かれているだけである。郁子がその前に立つと、自動的にコンピューターの電源が付いた。
    〔ログインパスワードを入力してください〕
    画面にそう表示されたので、郁子は自分のパスワードを入力した。
    〔inui-01-ayako-kitagami-asura〕
    すると、画面の上の壁が開いて、マイクが出てきた。
    「え?」
    と郁子が戸惑っていると、画面に次のメッセージが表示された。
    〔額田王の長歌を暗唱してください〕
    「はァ? なに、これ?」
    「ちょっと待て、もしかして......」
    祥は画面の「ひとつ前に戻る」をタッチして、自分のパスワードを入力した。
    〔inui-02-shou-takagi-kabuki〕
    すると今度は、壁からビデオカメラが出てきた。
    〔吉野山の静御前を舞ってください〕
    「こんな狭いところで舞えるか!」
    「これって、つまり......」
    パスワードと一緒に、その本人の得意技を披露してもらって、本人に間違いないか確認しているようである。
    「これって、カメラの前で審査してるのって、もしかしなくても乃木さんか?」
    「吉野山の静御前の舞を判断できる人ったら、この町じゃ乃木さんだけよね。あの方も元歌舞伎役者なんでしょ?」
    「そう、僕と一緒......モデルが同じ人だからな」
    「どうする? あなたがやる?」
    「勘弁してくれよ......」
    「じゃあ、私がやるしかないわね」
    郁子は画面をひとつ前に戻して、自分のパスワードを入力し、マイクを壁から出した。
    「冬ごもり 春さり来れば
    鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ
    咲かざりし 花も咲けども
    山を茂み 入りても取らず
    草深み 取りても見ず
    秋山の 木の葉を見ては
    黄葉(もみじ)をば 取りてぞしのぶ
    青きをば 置きてぞ歎く
    そこし恨めし
    秋山ぞわれは」
    郁子が暗唱し終わると、目の前のコンピューターが床の中へ沈んで、通路が開いた。通路の奥にドアが見える。
    「合格――ってことかしら?」
    「よくぞ一言も間違えずに......うちの奥さんの才女ぶりには惚れ惚れするね」
    「ありがとう、あなた。行きましょ」
    二人は通路の奥へと歩いて行った。

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