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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2014年08月01日 11時17分54秒

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    夢のまたユメ・100

    百合香は在宅校正士になってからと言うもの、食材を買いに行くのと定期健診に行く以外には外出をしなくなっていた。お腹の子供の為には軽い運動も必要だと言うことも分かってはいるのだが、そもそもの性格がインドアなのがいけなかった。
    しかしその日は、そうも言っていられなかった。
    猫部屋の窓の向こうに茶トラの猫がいて、ずっと姫蝶に話しかけているのだ。姫蝶の方も甘い声で鳴きながら、前足で窓ガラスをこすっている。
    『この茶トラちゃんは、柿沼のおばあちゃんの猫で、確か名前は幸太くん......』
    震災の折に姫蝶と知り合って、それ以来、こうやって窓越しに対面しているのだが、今日はいつもと様子が違っていた。
    『間違いない。姫蝶が発情期なんだわ (^_^;) 』
    発情期の雌猫に雄猫が求愛をしているということは、もう答えは一つしかない。
    『いつかは姫蝶にお婿さんを、とは思っていたけど......キィちゃんももう5歳。人間の歳に直したら30代ぐらいになるって言うから、子供を産むには、もうあまりチャンスはない、のかな?? どうする? 幸太くんをお婿さんにする?』
    こうゆう時、養母(飼い主)としては覚悟を決めなくてはならない。姫蝶が幸太と結婚して子猫が生まれたら、その子猫には一匹残らず里親を探してあげなくてはならない。どうしても見つからなかった場合は、すべて宝生家で養育しなければならない。捨て猫として放り出すなんてことは、絶対にあってはならないのだ。
    『よし、覚悟を決めたわ』
    先ず百合香は、窓を開けた途端に姫蝶が逃げ出さないように、姫蝶をゲージの中に入れた。
    窓を開けると幸太がひょいっと中に入ってきて、その場に座り、百合香のことを見上げていた。
    "にゃあ~"と鳴きながら、右の前足を上げて見せた。
    「えっと......ああ! 足を拭けって言うのね」
    外出自由の幸太は、家に入る時は必ず誰かに足の裏を拭いてもらうようにしつけられていたのだ。
    『流石は柿沼のおばあちゃん』
    百合香はペット用ウェットティッシュで幸太の足を拭いてやりながら思った。
    ゲージの中では、今か今かと姫蝶が歩き回っていた。
    「はい、お待たせ」
    と、百合香がゲージのドアを開いてやると、姫蝶が猛ダッシュで飛び出してきた。そしてすぐに幸太とラブラブモードに入ったので、
    「お姉ちゃん、お買いものしてくるわね。キィちゃんはお留守番してて」
    と、百合香は言って家を出た。
    外に出たところで、今日の買い物は済んでいるので、まったく用事がない。
    『仕方ない。寿美礼おばさんに言われた通り、散歩しよ』
    とりあえず慣れた道――シネマ・ファンタジアに行く時に通る遊歩道を歩いた。
    もうすぐ6月ということもあり、紫陽花(あじさい)の花がひっそりと控えめに蕾を付けていた。梅雨になればこの辺りは色とりどりの紫陽花で満開になる。
    『今年は梅雨の花見にも出掛けようかなァ。時間も出来たし、紫陽花も菖蒲も好きだし......』
    そんなことを思いながら歩いていると、向こうの方から手を振りながら近寄ってくる人物が見えた。
    「ユリアス~! お疲れ~!」
    ユノンだった――今日は勤務日だったはずだが......。
    「お客さんが少なくて、早上がりになっちゃったんだ。だから今からユリアスの家に行こうと思ってたの」
    「そうなんだ! あっ......でも、今うちには入れないわ」
    「なんで?」
    「実は......」
    百合香が姫蝶たちのことを説明すると、ユノンは大笑いした。
    「やだ、猫に遠慮して家を出て来るなんて (^o^)丿 」
    「だって......こうゆうの初めてなんだもん」
    「ユリアスって、猫を飼うのはキィちゃんが初めて?」
    「ううん。20歳になる前までニャン太っていう雄猫を飼ってたけど、あの頃は我が家もまだ木造平屋の古い造りで、ニャン太は好きに外出できるようになってたから、うちに雌猫を連れ込むことなんてなかったのよ」
    「なるほど。恋の情事は外で済ませてたのね、ニャン太くんは」
    「そうなの......だから、その幸太くんってね、もしかしたらニャン太の子孫なんじゃないかって思うのよ。ニャン太に色柄も体型もそっくりなんですもの」
    「アハハ、あるかもね、猫だから。......じゃあ、そこの東屋でお茶しない? お茶菓子にクッキー買って来たの。傍に自販機もあるし」
    「そうね、そうしましょ」
    二人は遊歩道の途中にある東屋に移動した。そしてユノンが自販機までミルクティーを二つ買いに行ったのだった。
    「お仕事の方はどう?」
    クッキーの袋を開けながらユノンが聞くと、
    「順調よ」と、百合香は答えた。「校正の仕事は私に合ってるわ。いろんなジャンルの作家さんの原稿が読めて楽しいの」
    「いろんなジャンルなの? 月刊つばさって若い人向けの文芸雑誌じゃ......」
    「つばさの原稿だけじゃないのよ、頼まれるのは」と、百合香は言うと、ミルクティーを一口飲んでから答えた。「仕事は崇原さんを通してくるけど、実際は海原書房のいろんな編集部から仕事を回してもらってるのよ。だから昨日終らせた仕事なんかは、俳句の雑誌の仕事だったわ」
    「へえ~~、そうなんだ」
    「俳句の原稿は解読が大変だったわ。草仮名って言って、なんか流れるような書体で書く人が多いの。上下の文字がつながってるような......」
    「平安時代の文字みたいな?」
    「そう、それ!」
    「へぇ、大変だねェ......」
    ユノンはクッキーを口の中に入れて、ゆっくりと噛みしめた......そして、思い切ったように、こう聞いた。
    「ねえ? カールとはうまく行ってるの?」
    「......悪くはないわよ」
    馨と付き合い始めて、もうすぐ一カ月が経とうとしていた。

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