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  • from: エリスさん

    2015年07月03日 11時17分45秒

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    夢のまたユメ・113

    ナミが馨に呼び出されたのは、それから4日ほど経った日のことだった。
    待ち合わせ場所に完全な女装姿で馨が現れたので、ナミは少々気おくれがしたが、そこは気付かれないようにして、ナミの行きつけの飲み屋に案内した。
    傍目から見たら、完全にカップルに見えてしまうだろう、美男美女の二人である。店側も気を利かせたのか、二人を個室のお座席室に案内した。
    「それで? 話ってなんですか?」
    ナミがとりあえずビールをあおってから聞くと、カクテルを一口だけ飲んだ馨が言った。
    「見たのでしょ? 百合香さんとミネさんの......」
    「誰から聞いたんですか?」
    と、ナミは動揺もせずに聞いた――おそらくそんな話じゃないかと思っていたのだ。
    「紗智子さんから......昨日、また悩み相談に乗ってもらって......」
    ―――昨日、翔太のことを相談しようと紗智子を飲みに誘ったところ、紗智子はこう話し出した。
    「私は今でも、百合香さんにはうちの弟が一番お似合いだと思ってる」
    それは当然と言えば当然な話だった。
    「でも、二人が結婚できない事情は、私が一番理解している。だから、二人が別れを決めた以上、受け入れるしかない......悲しいけどね」
    馨が何も言えずにいると、紗智子は焼酎を一気飲みしてから、言った。
    「この間、翔太から言われたわ。"長峰家は姉さんが継いでくれ"って。百合香さんと会って、そう決意したそうよ」
    「会った? 僕もいたあの時に?」
    「多分あなたが思っている時とは違うわ。翔太は百合香さんの家を訪ねたそうよ。そこで、百合香さんと久しぶりに結ばれて......」
    馨が驚きの表情をみせたが、構わず紗智子は続けた。
    「その事後をナミ君に見られたって言ってたわ。でもナミ君が間に入ってくれたんで、二人は冷静に話せたそうよ。そこで翔太は決心したの。自分は百合香さんと結婚しない代わりに、誰とも一生結婚はしない。だから、長峰家の次期当主の座を姉の私に譲るってね」
    「そう......ですか」
    「......それで? うちの弟の決心を聞いて、あなたはどう思った?」
    「どうって......さすがに、凄いって思います」
    「それだけ? 自分が身を引こうとか考えないの?」
    「そんな!」
    馨の答えにムッとした紗智子は、テーブルをバンッと叩いた。
    「甘ったれてるんじゃないわよ!」
    「紗智子さん......」
    「翔太はそこまで決心したのよ、百合香さんのために! だったら、あなたもそれなりの誠意を見せなさいよ! ただ好きだから傍にいたい、なんて、ガキでも言えるのよ!」
    「僕も、百合香さんと別れるべきだって言うの?」
    「......そこまでは言ってないわ」
    紗智子はそこで店員を呼んで、焼酎のおかわりを頼んだ。
    ―――そして、今日はナミと会う馨だった。
    「んで? 紗智子さんはどうするべきだって言ってたの?」
    ナミが焼き鳥を頬張りながら言うと、馨はクイッとカクテルを飲み干した。
    「二人が時々会うのを許してやれって......」
    「紗智子さんが言いだしそうなことですね。紗智子さんにとっては、ミネさんは可愛い弟だし、リリィさんのことは超超大好きなお姉様として慕ってるし」
    「うん......でもそれって、僕の立場はどうなるの? 僕は百合香さんと結婚するって、決まってるのよ」
    「決まってるって言っても、口約束でしょ? 世間一般から言えば、結納交わしてからが婚約だって言いますしねェ」
    「随分と古臭いことを言うのね」と、馨は思わず笑った。
    「でも実際、リリィさんが無事に出産を終えて、その時になってもまだリリィさんにカールさんとの結婚の意志があるか、確認してみないと分からないですよね」
    「君は、僕と百合香さんは結婚できないって思ってるのね」
    「どうでしょうね......俺も、リリィさんに惚れてる一人ですから」
    ナミのその言葉に苦笑いをした馨は「出ましょうか」と、伝票を手に立ち上がった。
    馨はナミをかなり駅から離れた所に案内してきた。そこは、百合香と翔太も良く利用していたラブホテルだった。
    「え? 俺たちで入るの?」
    「いいでしょ? 女に恥をかかせないで」
    ホテルの前で揉めるのもなんなので、ナミは仕方なく一緒に中へ入った。
    部屋に入ると、さっそく馨が服を脱ぎ始めた。
    「ちょっ、ちょっと!? 俺、やりませんよ!」
    ナミの言葉など無視して、馨は上半身だけを露わにして、ナミに抱きついてきた。ナミは、以前見せてもらった時よりも馨の胸が膨らんでいるのに驚いて、馨からのキスを避けられなかった。
    そのまま馨にベッドまで押しやられて、倒されたが、ナミは必死の抵抗をした。
    「待ってください! 俺にその気はありませんから!」
    「その気がなかったら、一緒に入らなければ良かったでしょ?」
    「女に恥をかかせるなって言ったのは誰ですか!」
    「いいから! 僕のものになってよ。間接的に百合香さんを抱いたことにもなるでしょ?」
    「そうゆう理屈は嫌です!!」
    ナミは渾身の力で馨を跳ね除けた。すると、馨はベッドの端に転がって行った。
    ナミは無理矢理脱がされた服を着直しながら立ち上がり、馨を見据えた。
    「いったい何がしたいんですか? リリィさんが浮気したから、自分もしてやろうって魂胆?」
    すると馨は、ベッドに仰向けになりながら、「いけない?」と聞いた。
    ナミは馨の胸を見ないように、目を背けた。「あまり"いい"とは言えませんよ。第一、俺を巻き込まないでください」
    「あなたなら、あげてもいいと思ったの、僕の処女を......百合香さんが昔好きになった人で、今でも百合香さんを好きな人だから」
    「えっと......さんざんリリィさんとやってるくせに、まだ自分を"処女"と言いますか」
    「そうよ。女同士では処女は失われないもの」
    「ああ、そういう理屈ですか......」
    意味が分かったナミは赤面するしかなかった。
    「女が処女をあげる相手って、それだけ大事な人なの――百合香さんにとっては、それがミネさんだった」
    馨は寝返りを打って、うつぶせて、顔をうずめた。
    「分かってる......本当は百合香さんとミネさんが結ばれるべきだって。分かってるの、でも......僕だって、百合香さんとじゃなきゃ生きていけない......」
    馨が泣いているのに気付いたナミは、そうっと傍によって、タオルケットを掛けてあげた。
    「先にシャワーいただきますね」
    ナミは言いながら浴室へ向かった。すると、
    「いいの?」と、馨が体を起こしながら言った。
    「言っておきますけど、俺はその気はありませんから。ただ、お泊りには付き合います。寝ながら朝まで語り合うとか、合宿みたいでいいじゃないですか」
    ナミが満面の笑顔でそう言うので、馨も素直に頷くことができた。

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