徳田虎雄は「医師に必要なのは臨床経験だ。博士などいらん」と云ったが、けだし名言である。医療と関係のないテ－マでもらった博士号を持っていても何の役にも立たないからだ。
　ところで、名医とはなにを云うのかであるが、これを定義すれば、患者の病状を的確に判断して、最適な医療を施し、病気を治せる医師だ、と云うことになろうが、そのパタ－ンは一つだけではないと思う。
　筆者の知っている医師で、専門は疫学で博士号も持っているが、臨床の家庭医に転じて十数年経つのに、勉強しないから、臨床の腕は一向に上がらない。医療過誤が起こらないのが不思議なくらいであった。
　ところがこの先生、すこぶる便利なところがある。薬は要求すれば何でもくれるし、自分の医師としての力量を知っていて、自分の手に負えそうもないと判断すれば、直ちに良い医師を紹介をし、決して無理をしないのである。
　これも名医の一つのパタ－ンであると思う。要は、感患者にとって最適な医療を提供できることが名医の条件であり、それは自分が治療することに限定しなくても良いからである。
　村上新八