文理の奇跡は起こった。
しかし、これはけっして奇跡ではなく、彼らの培ってきた実力なのだ。
実力以上の野球はできない。
運もそれは実力のうちなのだ。
この全県に感動と希望とを与えたプレーは、
9回表のツーアウトからだった。
10対4と負けいた文理にとって、
一つのアウトは、甲子園との別れを意味した。

もっともっとここでプレーしたい。
負けるわけには行かないんだ。
とにかくどんなことでも塁に出る。
そんな気迫がバットにこもった。
野球はツーアウトから。
そのことを決勝戦の大舞台で見せてくれた文理ナインに心から敬意を表する。
そして、ただひたすら感謝、感謝、感謝である。

その歴史が誕生する瞬間を、
あの甲子園で目の当たりに出来た人たちの幸せなことよ。
ツーアウトになった時、諦めてはいなくとも、
ため息は出たと思う。
その後たった一つのアウトの合間に、
あれだけの快進撃を遂げるとは、
いったい誰が予想したことであろうか。

一人、二人、三人。
そのプロセスの中で、
「もしかしたら・・・」と熱い希望が蘇り、
ここぞとばかりに声を限りに声援を送ったはずである。
その鳥肌の立つ瞬間に出会えた人は、
やはりあの甲子園のスタンドで応援していた人なのだ。

私は仕事のためにライブでは観戦できなかった。
その後も観られず、
結局は帰ってからの「熱闘甲子園」で観戦だった。
涙が流れた。
結果が分かっていても、負けたことは知っていても。
あの連続安打に、あの必死なバットの一振りに、
あの懸命な走りに、
涙が流れた。

どうしてこんなに感動するのか。
思い出している今も涙で曇っている。
人生９回表ツーアウトの土壇場はいつものことだ。
そんな時、文理を想おう。
ツーアウトでも負けない魂を。
一人ではないのだ。
次につなげることだけを考えて、
必死に集中してバットを振ればいいのである。

どうしてこんなに感動するのか。
どうしてこんなに泣けるのか。

私たちは、奇跡を観たのだ。
ということは、この世には奇跡が存在するということなのだ。
そしたら、生きられる。
ヒットは、続くかもしれないのだ。
たったワンアウトの間に、5点を入れることも出来るのだ。

ただ一言、文理のみなさん、ありがとうございました。