やっぱり人は何が起こるか予想がつかないから、
平素の生活が大切だと思った。
例の交通事故の加害者の爺さんは、未だに謝りには来ない。
「ちゃんと通夜と葬式があると言ったろ。」
「俺だってひく気はなかったんて。」
悪いとも思わず、すみませんの一言もなく、
とにかく面倒な男とかかわってしまったとばかりに、
「おめさんの都合聞かせてくんなせや。」それだけだ。

休日に来られては、せっかくの休日が台無しだ。
土曜日には小千谷に出かける予定もある。
だから、断った。
彼は、本日やっと警察へ出向いたそうだ。
私を引き殺そうとしたその夜、温泉旅行で楽しんだ人である。
ひき殺されそうになった私は、
せっかく予定していた映画をキャンセルし、救急車だった。
次の日は、酔っ払っているので私の処へは謝罪には来なかった。
何よりも謝罪する気持なんぞこれっぽっちもない男なのだ。

そんな事情を相手方の保険屋に話した。
担当の方は、絶句していた。
ひかれた本人が奇跡的に助かったその夜に、
彼が温泉旅行に行き、ドンチャン騒ぎをしていたのである。
「ひかれ損」だけはごめんこうむりたかった。

ひいた男が、一泊の温泉旅行ならば、
ひかれた私は、あの映画館ですでに上映が終わった「トルストイ最後の旅」を観たいと思っている。
ひいた人間が温泉ならば、映画の一本ぐらいひかれた人間の願いを叶えられるはずである。

私は今回の事例については大変な矛盾を感じている。
突然飛び出して来て、自転車に体当たりをした男がいたら、
その男は傷害罪で警察に逮捕されるのではないだろうか。
私は、道路に投げ出され、もしかしたら自動車にひかれて死んでいたかもしれないのだ。
それなのに、相手が自動車に乗っていて、同じことをしても何にも罪には問われないのだ。
その男は、悠々と温泉旅行へ行けるのである。
この理不尽を許すわけにはいかない。私は怒っているのだ。

ということで、保険屋にも書類は送っていない。
本人はしぶしぶやっと謝る気になったようだが、
謝ればそれでいいという問題でもないような気がする。
あの雨の中現場検証を受けてから一週間たっている。
私は、ユナイテッドで「トルストイの最後の旅」を観るまで、
絶対に許さないつもりだ。
加害者が温泉の一泊旅行へ行けるのだから、
私もそれぐらいの小さな夢を望んでもいいのではないだろうか。

ついでに、裁判とというものも体験してみたいと思ってもいる。