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親父たちよ

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  • from: クマさんさん

    2012年06月22日 07時31分38秒

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    6月22日(金) 午前1時40分

    母が、逝った。
    午前1時40分だった。
    安らかに、眠るようにしてすーっと息を引き取った。
    実に見事な最期だった。

    担当医のS先生が駈けつけてくれた。
    二人で願っていた眠るような最期の瞬間だった。
    S先生がベッドの脇に立つと、しばらくしてから血圧計がすーっと下がり0を示した。
    0のまま、私たちは息をしなくなった母を見つめていた。
    私は、あんまりにも母の見事な最期の姿に、心からの感謝を込めて拍手を送った。
    その拍手を母は聴いてくれただろうか。
    「ブラボー」と声に出し、母の人生を賛美した。

    見事な人だった。
    まさに、かく死になさいとでもいうように、私に最期の教えを伝えて行った。
    母は、身体だけの母となってしまった。
    私は、病室のどこかに居るはずの母を探した。
    そして、母は、私の心の中に居るのではなく、私が母の心の中に生かされているのだと感じた。

    私は、たった独りの母の死を体験した。
    昔、私は母との別れの場面を思い浮かべたことがあった。
    その時は、絶対に取り乱し、大声で泣き叫ぶのだと想っていた。
    しかし、現実は、じっと母だけを見つめた。
    そして、母が死者となり、ここからどのようにして存在するのか見届けようとしていた。
    これが親との別れなのか・・・・。

    看護師さんたちが体を拭いて、支度をする間、ロビーのソファーに座っていた。
    未だに、何が起こったのか分からないまま、時が過ぎて行った。
    現実味のない感覚とでも言うのか、何だか映画のワンシーンのようだった。

    12時15分頃だったか、枕もとの携帯が音を出して震えていた。
    「はい・・・、Sです。」と言うと、相手はK病院の看護師さんだった。
    「血圧が下がり、様態が急変したので、すぐにご家族の人に・・・。」
    私は、その時が来たことが、信じられなかった。
    しかし、現実とはかくも苛酷な事実が突然やって来るものだ。
    妹に電話し、タクシーを回してもらうことにして、次男を起こした。
    長男に電話して、五十嵐からタクシーで来いと言うと、
    「どうやってタクシーを呼べばいいの」と来た。

    病室に入ると、やはり人が死んでしまう直前の異様な空気感に満ちていた。
    「ああっ、今夜、逝くな。」
    モニター画面には、血圧が表示されていた。
    92位からからだった。まだ大丈夫ではないかとは思ったが、
    心臓の波は激しく乱れ、測定不能の表示が出ていた。
    叔母たちが次々に駆けつけてくれた。
    長男もタクシーに乗って登場した。
    病室には総勢12名の団体が、みんなで母の名を呼んだり、感謝の言葉をかけたりしていた。

    私は、5階に向かい、夜中なのだが、看護師さんに頼んで父を車椅子に乗せて連れて来た。
    4階に来たとたん「ションべん」と言われて、慌ててしまった。
    父は、すでに立つのがやっとの人になっていた。
    父は、現実が理解できないようで、母の手を握りながら戸惑っていた。
    「ばあちゃん。ばあちゃん。」その言い方が、切実だった。
    母は、今あれだけ好きだった父をこの世に置いて旅立たなければならないのだ。

    酸素マスクの下で、口を開けて荒く息を吸ったり、吐いたりする母だった。
    しかし、父にはきっと母の声は聴こえたはずだろう。
    父は情けなくもしゅんとなり、頭を垂れてじっとしていた。
    父は、父で、母に心で誓うものがあり、この瞬間から生き方を変えるはずだ。

    母は、逝ってしまった。
    父も、いずれは逝ってしまう。
    それは、私も同じである。

    母の遺体がセレモニーの職員にエレベーターで運ばれて1階に降りた。
    そこに、S先生が立っていてくれた。
    私とS先生は、車から後ろの座席に母の体が入れられるのをじっと並んで見つめていた。
    長い長い闘いだった。
    二人は、本当に母が大好きで、母を何とか生かしてあげたい二人だった。
    しかし、延命治療はしない。眠るように最期を迎えることを願っている二人でもあった。

    以心伝心。
    本当に最期まで見事に命を燃やして全うした母の人生に、
    実は二人は敬意と感動とをもって母を見つめて立っていたのだ。
    母を支え、母を励まし、母を生かそうと努力した、私たちは同士だった。
    しかし、反対に母に支えられ、励まされ、生かされていた二人だったかもしれない。

    後部座席に座り、後ろを見ると、S先生が小雨の中で立っていた。
    私は深々とお辞儀した。
    車がゆっくりと走り出すと、S先生が深々とお辞儀していた。
    私は、その姿を見て、母は深く深く愛されていたのだと感じて、
    涙が止まらなくなってしまった。

    この母の尊厳に満ちた最期の姿に、私たちは感動してやまないのだった。
    人間は、やっぱり凄いものだと、私は改めて知った。

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