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from: クマさんさん
2012/12/01 06:26:47
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「春のホタル」を想う Ⅰ
先週の今日、初日の朝だった。
もう一週間もたってしまったのかと、何だか遠い昔の出来事のように感じられる。
燃え尽きたことのある人にはよく分かるはずだ。
その喪失感と消耗感は、尋常なものではないからだ。
「使命」と言われるが、本当に命を削って何かを創っているのだと、いつも感ずる。
「春のホタル」を想い返すと、想い返す度に、
何とも深い哲学が、この物語には生きていることが感じられる。
分析「春のホタル」それをやりたいと思っていたのだが、
日々、胃腸炎と吐き気と闘いでは、なかなか手が出なかったのが現状だった。
舞台は、現実の世界と「異界」、死者の世界とを繋ぐ接点である。
ここでしか、私たちは死者の想い為しや願いとを、
現実の確かさと感動とをもってリアルに表現させることができないのだ。
良子先生は、自分の短い命を知っている。
また、病状が進めば進むほど、自分の死期が近いことも感じている。
そんな運命に立たされた時、人はどう生きるのだろうか。
良子先生は、その一つの生き方を示してくれた。
「夢」に向かって生きることだ。
「ただ愛する」ことで誰かの心を救ってやることだ。
「自分はいらない。愛する人たちのために」である。
「私は、辞めません」と言い切った、あの一言に良子先生の決意と真実があったと感じた。
次に、ホタルの存在である。
お婆ちゃんと双子のホタルたち。
最初の登場は、徳田の台詞からである。
「それでは、目を閉じてごらん。そして、今を夏の夕暮れだと想ってごらん。」
ここから幻想的で叙情的なホタルのテーマに誘われて、ホタルたちが登場する。
いったいどこから?
それは、実在する異界からなのである。
もはや絶滅してしまったホタルの瞬きを、想像の世界で見せるこのシーンこそ、
異界と人との魂の交信なのだと、私は想っている。
死んだ魂は、存在しないのだろうか。
目に見えるものだけが確かなものなのだと信ずるか弱い想像力では、
どんなに生きていたとしても、決してこのホタルの存在には気づかないだろうと想っている。
徳田は、けっして催眠術をかけたわけではない。
ただ、心を静かに、自分の想いに素直に従えば、
きっと見えるはずだと信じている人なのだ。
徳田は、そうやって死者の魂と出会い、祈り、語り、分かち合って生きている人なのだ。
きっと路傍の地蔵に真摯に手を合わせ、拝む心をもった人なのだろう。
子どもたちも良子先生も、観たいと心から願った人なのだ。
ホタルたちは、その魂を選んでくれた。
そして、良子先生を舞台の中央に誘い、そっと聴こえぬ言葉で語りかけてくれていた。
「もう少しですよ。」「私たちがその時まで見守っていますよ。」
感応という言葉がある。
やっぱり、求めた者には、その求めに応じて向こうから出会ってくれるものなのだ。
目が覚めた子どもたちは、驚いていた。
「あれっ、まだ昼だよ。」と。
実在する魂は、私たちの全ての時間と空間に偏在する魂なのである。
私たちは、実はこの魂の世界に包まれて生きている。
魂とは、私の中に在るものではなく、
この空や雲や風のように私たちを包んでいるフォースなのである。
傍らには、やっぱり亡くなったはずの母が居る。
私は、母が死者となってからは、どれだけ母に語りかける回数が多くなったことだろう。
苦しい時には、頭を下げて、「守って下さい」と本気でお願いなんかしている。
死者である母には、今でも大きな息子は甘えているのだ。
「そんな馬鹿な」と言う人には、ホタルは見えない。
本当は、人は絶対には孤独にはなれないのであるが、
そんな考えの持ち主は、人ばかりを相手にするから、きっと孤独なのだろうと私は想う。
私は、母だけでなく、多くの想い為しと共に生きているつもりだ。
死期が近いかどうか分からないが、ホタルは今もこの傍らに生きている。
「われらとの共存し共生し共闘する」という言葉と出会った。
亡き妻に捧げる上原専禄の言葉だった。
亡き妻は、上原氏と共存し、共生し、共闘する妻であった。
「私たちが暮らす現象界は、存在世界の一部に過ぎない。仮に現象界の彼方を実在界と呼ぶことにする。そこは死者の国である。あるいは菩薩の国である。」
「また、歴史を読むとは、現象界と実在界の交差する現場に立ち会うことであり、生者と死者との協同を目撃することだ。」 若松英輔著「魂にふれる」より
私たちは、まさにそのことを、リアル感をもって目撃し、魂をもって感応しつつ、
実在界と現象界との共存・共生・共闘を見つめたのではないだろうか。
それが、この物語の神髄であり、舞台の醍醐味なのだと私は想っている。
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