昨日、父の病院へ向かおうとしたら、警察官に止められた。
何か事件かと驚いたら、みなとトンネルが冠水のため通行止めだそうだ。
きっとそのおかげで渋滞するだろうと思い、引き返すことにした。

すると父が相当暴れて、病棟の人たちに大変迷惑をかけていたと言うのだ。
父の洗濯物を取りに行った妹が対応したが、
彼女の名前を大声で呼び、２時間も怒鳴っていたそうだ。
泣きそうになってしまった妹は、今度は私に怒鳴っての電話だった。
父の認知症は日に日に進み、病院にはとにかく困った存在として認知されている。
本人には全くその自覚がないから、
思うがまま、感ずるがまま、何をやってもそれが父だった。

病院に行って、父や他の年老いた患者さんたちを見ていると、
看護師さんたちの親身で丁寧で、笑顔での対応にいつもいつも頭が下がる。
我がまま放題に怒鳴り、文句を言い続ける老婆に、
とにかく寄り添いながら、食事を一さじ一さじ食べさせていた。
仕事だからではなく、それはそのまま人間修業だった。
忍耐、そこからしか本当の愛情は生まれないのかもしれない。

患者さんたちは、自分の家族でも親族でもない。
ここに来るまでは全くかかわりのない他人だった。
でも、ここに居たらその人は、自分の担当の患者さんとなる。
嫌なことも、腹の立つことも、無視したり、怒鳴りたいと想うことも、
それはそれは様々な渦巻く感情だろう。

しかし、この修業は、感情を殺すことにあった。
感情に自分を支配され、自分の心や感情を乱さず、
どんな状況に在ろうとも、冷静にクールに対処する。
しかし、その自己の構えは、相手に対してはやはり愛情なのだと私は想う。

家族であるから、互いに感情を爆発させ、言いたいことを言いあってしまう。
時には、妹のように感情が激すると、突然電話で怒鳴って来る。
相手が傷つくことを分かっていながら、一方的に攻撃をする。
ある時は、自分だけが正しいと、相手のことを否定する。
そんなことが起きるのは、やっぱり家族だからなんだろうなぁ。

しかし、私もこんなにも短気で、どうにもならない自分の私も、
今は、限られた時間だからか、父に対しては少し冷静でいられる。
それは、父のいのちが限られているからだと、今は想っている。
いつまでも一緒に生きられると思うから、
そんな暴言が吐けるのだ。
もし、家族の誰かが明日死ぬという人だったらどうだろう。

家族とも、やっぱりいつか別れる人たちなんだ。
そのことは確実に全ての人には言えることだった。

看護師さんの献身的なケアには、心から頭が下がる。
父は、今朝は落ち着いてくれているだろうか。