土曜日の午後、電車で豊栄駅に向かった。
私の前の座席に視覚障害の二人の中年の女性が座った。
一人の女性は白い杖を持っていた。
もう一人の女性は弱視なのか、その彼女をサポートしているようだった。

そのサポートの彼女は、電車が発車してから５分くらい携帯で何やら話続けていた。
それは買った製品を返品するためにどうしたらよいかという、
業者への問い合わせだった。
もう一人の全盲の女性は、彼女の電話が終わると、
共通の友人のことを話し出し、人の気持ちが分からない人だと手厳しい話だった。
私は、何だか心の中で嫌だなぁと思ってしまった。
そのうちに電車は、大形駅を過ぎて、大きな音を響かせて阿賀野川の鉄橋を渡った。

すると、サポートの彼女が不安げに話し出した。
「豊栄駅、私初めてらんさね。どうしょばね。分かるろっかね。」
すると全盲の彼女が答えた。
「大丈夫らて。だっか豊栄駅で降りる人いるて。その人に聞けばいいんだがね。」
「豊栄駅で降りる人・・・・。」
それは、私ではないか。

電車は新崎を過ぎて、早通に向かった。
後数分で目指す豊栄駅だった。
私はある会議に出るためにこの電車に乗っていた。
実は、駅を降りたら少し急がないと遅刻しそうな時刻でもあった。
では、どうするか。
このまま知らぬふりをして先に降りてしまおうか・・・・。

電車は、豊栄駅に近づいた。
「出口、どっちらろうね・・・・。」
私は、リュックを肩にして立ち上がった。
「あのぅ、私、ここで降りますが、一緒に降りますか・・・・。」
やっぱりそうだよなぁ。このまま行くことはできないよなぁと、２人に声をかけた。
「出口は、左側です。私につかまって一緒に降りて下さい。」
「ああ、ありがとうございます。助かりますて・・・・。」
電車は停車した。私は、ボタンを押して扉を開けた。
２０センチくらいだろうか。電車とホームに段差があった。
「ここに段差がありますから、気をつけてください。」

私の左ひじにサポーターの彼女、その彼女の肩につかまった全盲の彼女。
ホームには改札までのエレベーターがあった。
エスカレーターだったらどうしようと私は不安に思っていたのでほっとした。
「エレベーターに乗りますね。」
一つ一つの動作を声に出して説明した。
すると二人のことに気が付いたのか、中年の駅員さんがやって来てくれた。
「大丈夫です。ありがとうございます」と、私が声をかけた。

改札口を通る時、切符の入り口を全盲の彼女の手を取って教えた。
「手に触りますよ。ここに切符を入れてくださいね。」
ところが吸い込まれた切符が出ても、扉は開かなかった。
彼女は新潟駅で、改札を通さずに来たのだと言っていた。
すると、さっきの駅員さんが笑顔で来てくれた。
「その横を通ってください。そのままでいいですよ。」

改札を出た後、出口まで案内しますと言うと、
「ここで村上から来る友達と待ち合わせしていますから大丈夫です」と、
２人にお礼を言われて、私は２人と別れて会場に早足で向かった。
下りのエスカレーターだった。
２人だけだったら、きっと怖いだろうなぁと、降りながら私は感じた。
２人はこれから、村上の友達と一緒に月岡温泉に一泊するそうだ。