ユッカが古町どんどんにやって来る。
絶大なる声援をお願いしますと、はがきがメールで届いた。
「ユッカいーーなの仲間たち」
その代表からのはがきだった。

ユッカという歌姫、ディーバーと出会ったのは、5年前だろうか。
市民劇団を立ち上げ、「王瀬の長者」の劇に取り組んでいた頃だった。
酔っぱらってどんどんを徘徊していたら、
突然晴天の霹靂のようにソプラノの美しい歌声に心が動いた。
私は立ち止まり、聴衆の背中越しに、その歌声の美女を観た。
その瞬間、やっぱり時は止まった。

美しさは、ここにあるもの。
コロラトゥーラソプラノの力強い響きで、
モーッアルトの「魔笛」「夜の女王」のアリアが歌われていた。
世界は一瞬に変わるもの。
その響きに雷のように撃たれ、動けなくなってしまった私の身体の奥の奥から、
いつの間にかとめどない涙が溢れた。

涙が恋する者に出会えたことを感謝し、喜ぶように、
ただ、ただ、ただ溢れては、頬を流れ落ちて行く。
どうしたのか。どうなってしまったのか、私には分からなかった。
オペラが、街に降りて来た。
まさにミューズの降臨ここにあり。
それが彼女との出会いだった。

私は、生まれて初めて追っかけというものをやった。
次のステージを息を凝らして待っていたら、
劇団で主役をやっているＨさんがそこに居た。
「私も、ユッカの大ファンです」とのカミングアウト。
「おお、Ｈさん、お前もか」だった。
それが彼女の親衛隊であり私設大応援団である、
ブラボー・ブラザーズの誕生した瞬間だった。

そこへ、毎回ステージの度にゴージャスな花束を、
彼女に贈る素敵な青年Ｓさんが加わり、
私たちは、ユッカ命と心に決めて、
ユッカのステージの度に、前列に陣取り大暴れしてきたものだ。

「ユッカー」
「ブラボー」
「ユッカ、最高」
初老の中年親父が酔っぱらって怪気炎を揚げている。
世の人たちの顰蹙を何するものとの、暴れっぷりだった。
その後は、必ず反省会と称して、
コンビニで買った菊水とビールでストリートドランカーとなっていた。
親父たちには、金も無かった。
あるのはただユッカを愛する心のみ。

ある日、ユッカの新潟市でのエージェントであるＫさんからメールがあった。
新潟でユッカのファンクラブを結成します。
つきましては、クマさんにも是非参加してほしいとのユッカからの伝言です。
「何。ユッカが、わたしに・・・・・。」
それは、彼女のＨＰにせっせと私がラブレターを贈っていたからだった。
ステージから、いつも前列で暴れまわっているクマのことを、
覚えていてくれたとは・・・・。
何だか、泣けたね。

その初代ファンクラブの名前が、「ユッカいーーなの仲間たち」だった。
そして、その仲間たちは、年に二回、ユッカの基に集結する。
私は、新潟マラソンで走った後に、ステージに駆けつけたこともあった。
そのステージ一つ一つの思い出は、今も懐かしく感じられる。
ユッカのための映画の脚本も書いたものだった。
シネウインドのＨさんやあっちこっちに読んでとばかりに配ったけれど、
やっぱりそれは没となって、未だに日の目を見ていない。

いくら書いても切のない話。
ただ、一人のディーバーとの運命的な出会いは、
確実に私の人生の方向を変えてしまったということだけはここに記しておく。
ユッカが、ユッカとして生きて、成長するように、
私も私として、同時間的に生きて、彷徨って来た。
一人の歌姫に恋をした。
それは、決して成就するはずのない恋である。
彼女は、スターだ。

ただ、その憧れが、私にとっては生きる原動力の一つとなった。
今、彼女はＦＭである番組のパーソナリティーをやっている。
病院でその声を聴けたときの嬉しかったこと、嬉しかったこと。

星は、遠くで瞬き輝き、夜の帳を美しく彩っている。
地上から憧れの眼差しでその星を見つめながら、
私は、沈黙の中でその星が語りかける物語や歌を聴いている。
それは、私の深く深くでシンクロし、
私は、ただ私であることに落ち着きながら、その星に導かれ、誘われて行く。
遠く、遠く、彷徨なる宇宙へ。

さて、今朝も出勤の車では、ユッカの歌声を聴くことにしよう。

ユッカ、愛しています。
ああ、言ってしまった。