人は、どうして涙が出るのか。
何だかとても涙もろくなってしまった私は、
たった今、Ｓさんと電話しながら泣いていた。
込み上げて来る。
どうにもならない。
気が付いたら泣いている。
人は、泣ける。
私は、職場でも泣き、教会でも泣き、家でも泣いている。

何だ。いったいどうしてしまったんだと、おろおろとしてしまう。
今は、泣きはらした瞼が腫れ、目が真っ赤になっている。
泣ける人としての、私は、それでいいと、今は想える。

深い深い、言葉にならない何かが感じて、動き出す。
今、動いたぞと、涙がその動きを明らかしてくれる。
それは、そうしようと意識して動くものではなく、
ただ、そのものと出会ってしまったから、
そのものそのままを感じてしまったから、
どっと「分かったよ」と、内からあふれ出すものが、
何だか、この涙というもののような気がする。

私の中の私が、いや、私が忘れていた私が、
その私が、その瞬間に現れる。
泣いているのは、きっとその私だ。

私は、泣く私になって、私のことを思い出す。
５９歳のこの男が、込み上げる涙をそのままに、狼狽えず、受け入れる。
私が泣きたいのだから仕方ない。
深くで感じて動き出してしまったのだから、それでいい。
職場でも、目を真っ赤にして仕事した。
ここでも、目を真っ赤にしてこれを書いている。

涙は、私を優しい私に変えて行く。
私は、涙を流すたびにちっぽけな私から離れ、
人としてではない、私に還る気がする。

泣くと涙と書いてみる。
すると、そこには「立ち戻る」と書いてある。
涙には、本来の自分に自分を立ち戻す力があるのではないだろうか。
この立ち戻った私で、生きようと想った。
そしたら、一つの花の意味が分かったような気がした。

この花のように、ただ生きていれば、それでいい。