Ｓさんと、よく話すことがある。
それは、「身体に気持ちいいことをする」ということだった。
とてもそれは単純で、素朴なことだ。
今、ここで、すぐにやれる。
それを、そう想ったら間髪を入れずに、すぐにやる。動く。働く。
すると、とても気持ちよくなる。
心がすっきりと、喜んでいることがよく分かる。

朝、下に下りる。
台所の流しに茶碗があったとする。
それを、私が、洗う。
洗濯物が溜まっていたとする。
それを私が洗濯機に放り込む。洗剤を入れる。スイッチを押す。

干すためには、物干しを空にする必要がある。
すぐに二階に上がり、ベランダに立って、洗濯物を取り込む。
ただ、取り込んだだけでは、この先にはたどり着けない。
収まるところに、収まることが肝心要だ。
だから、洗濯物の山を作り、一枚一枚それを丁寧にたたむ。
この時、やっぱり家族の顔を思い出す。

それから、せっせとそれを運び、箪笥にしまう。
それで、やっと次の山のような洗濯物を干せるようになる。

お腹が減ったら、米をとぐ。
食べたい時刻に炊飯器のタイマーをセットする。
サラダを食べたいので、いつも千切りキャベツとレタスとトマトだ。
それをガラスの器に盛って、冷蔵庫で冷やす。

味噌汁を一人分だけ作ることもある。
鍋に水を入れてコンロに火をつける。
本だしの粉末と、少量のコンソメを入れる。
具材は、冷蔵庫の野菜ケースに入っているものの中からのチョイスだった。

今日は、金曜日だ。
燃えるゴミの収集日だ。
これから台所に行って、ゴミ袋にそのゴミをぎゅっと詰める。
１０リットルの黄色のゴミ袋にコンパクトに押し込んで、ぎゅっと縛る。
今朝は雨だから、傘をさしてゴミ捨てに行こう。
行き帰り５分間の仕事だった。

会う人たちには、知らない人にも、挨拶をする。
黙って通り過ぎない、行きかわない。挨拶は、する。

さてね、こんなふうにただなんとなく生活をしている。
ただ、本当にそれだけのこと。
自分が気持ちいいから、そうしているだけ。
何も考えない。
息子が脱ぎっぱなしにしているＴシャツや短パンを、
洗濯籠まで持って行って、放り込む。

余計なことは、言わない。求めない。
ただ、私が、やるだけ。身体を動かすだけ。
でも、そうやって身体を動かしていると、部屋の中がすっきりと片付く。
着るものはいつも清潔に仕舞われてある。
台所の流しも食器洗い機もすっきりと何もない。

庭の花も、きれいに咲いている。
ゴウヤもでっかいミノムシのようにぶら下がっている。

昨日も涼しかったので、一日、高枝鋏で枝をせっせと切っていた。
脚立から落ちそうになりながらも、
一階の屋根より高いところに塔のようにして立つ松の新芽をちょきん、ちょきんだ。
上手く取れると、これがまた気持ちいい。

この途中には、全て、意識は入り込まない。
全くの無意識の世界だ。
その間髪の間に、ふと、「何で」「どうして」と意識が入ると、
同じことでも気持ちよくはいかないものだ。
いいんだ。
そうならば、そうなんだから、やればいい。
いつか、誰かが、やらんばないこと。
それを、ただ、今、それに気付いた私がやっているたげではないかと。

その結果についても、何も期待していない。
ただ、やって気持ちよかった、それだけで十分だ。
家族からは、いつも煙たがられ、どうも外されている私。
昨夜は、妻と長男と次男で、「君の名は」のビデオを観ていた。
台所にひょいと行ったら、私だけがここには居ない。

それで、いいんだと、そう想う。

雨がずっと降っている。
今、雨の音が少し強くなってきた。
涼しい一日になりそうだ。
今日は、長くやっていない、部屋の掃除でもしてみよう。

考えない。悩まない。ぐだくだ言わない。
ただ、身体を動かす。

そうすれば、きっと誰かが楽になり、気持ちよくなるはずだ。
「傍楽」「はたらく」「働く」だな。

人は、やっぱり動くものなんだ。
動きながら、考えれば、いいんだと、私は想う。