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  • from: クマドンさん

    2017年10月11日 06時17分32秒

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    あるタレかつ丼の悲劇

    ある三年生の男子の話を聴いた。

    その日の給食は、彼が大好きな「タレかつ丼」だった。
    彼は、自分の前に置かれた丼が宝物のように輝いて見えた。
    彼は「とんかつMちゃん」で食べたタレかつ丼の味を忘れられなかった。
    「世の中には、こんなに美味しいものがあったのか」と、
    彼にとっては、その出会いは、世紀の発見でもあった。

    「いただきます」
    しかし、彼は、タレかつ丼の丼には手をつけなかった。
    大事に、大事にその丼をそのまにして、
    豆腐とわかめの味噌汁と、シャキシャキ大根サラダだけを、
    行ったり来たりで食べていた。
    きっと食べることが惜しくて、惜しくてたまらなかったのだろうなぁ。

    その内に、意を決して丼を左手に持った。
    そして、ご飯の上に乗っかっているカツをじっと見つめた。
    まさにそれは、愛でる。目で味わっている風情だった。
    まず、タレの浸みた甘いご飯を一口。ほんの一口だけ食べる。
    そして、そっと箸でカツを持ち上げ、その端っこをちょっと噛んで食べる。
    至福の時だった。
    彼は、また味噌汁とサラダとのローテーションに戻る。
    丼の中では、タレかつがでんと褐色の甘い香りの輝きだった。

    減らない。大食漢の大柄な彼なのに、
    このかつ丼は、一向に消費されずに、その姿形を遺していた。
    確かに、端っこから少しずつ食べられ、その面積は僅かずつ減ってはいるが、
    まだまだ当分味わえる感じだった。

    ところが、その時、魔の声が聴こえた。
    その日、欠席者が1人居たので、タレかつ丼一人前がお代りだったのだ。
    「タレかつ丼、食べられる人」
    数人が吾もとばかりにさっと手を挙げた。
    「自分のタレかつ丼みんな食べた人にするね」との声。

    彼は、考えた。考えた。考えた。
    このままのスピードでこの一枚のタレかつを味わって行くか。
    それとも、このタレかつをさっと食べて、ギャンブルに出るかだ。
    そんな彼を観ていた周りの友達たちは、はらはらどきどきだった。
    「負けたらどうするの?」。ジャンケンで勝負は決まる。
    「それより、その一枚を最後まで味わったら・・・・」。
    しかし、彼は、ギャンブルに打って出た。
    とたんに、がつがつとあんなに大事にしていたタレかつ丼を、
    あっと言う間に、口の中にかきこんだのだった。

    そして、立ち上がり、ライバルたちの集まっているところに馳せ参じた。
    ところがだ、ここに予想外の展開が待ち構えていたのだ。
    「Aさん、お口の中にまだ入っているね。ジャンケンできません」だ。

    ガーーーーーーーーン。
    彼の目に涙が湧き、滲み、教室の中が何だか暗く、ぼやけて見えた。
    席に戻るまでの、長いこと、長いこと。
    彼は、戻ると崩れるようにして、机の上にうっぶした。
    こんな元気のない彼をかって観たことが無い。
    周りの子どもたちも、彼の悲劇を哀れに感じた。

    そこへ、魔の声ツーが響いた。
    「ブルーベリーゼリーがあります。食べたい人、ジャンケンだよ」。
    彼は、その声を聴き、むくっと身体を起こした。
    再起だ。
    彼は、周りの友達が制止するのも聴かず、自分のゼリーの蓋を開けた。
    そして、そのゼリーを貪るようにして一気に口に入れた。
    もちろん、全部飲み込んだことは言うまでもない。
    同じ失敗はしない男だった。

    そして、参戦。
    並み居るライバルの中で、必死に闘った。
    しかし、やっぱり、あえなくノックアウトだ。
    彼は、この給食の残りたった3分間で、
    人生そのものの悲哀とや何たることかを味わった。
    こんなことがあるのか。
    いや、いや、こんなことの連続こそが、人生なんだ。
    きっとあの声は、悪魔の声ではなく、
    欲望にたぎっていた彼に対して戒めを与える、神様の声だったのかもしれない。

    彼は、夢も希望も喜びもすっかり失ってしまった人のように虚ろにそこに居た。
    ただ、口だけは少し、わずかに、動いていたことを、
    隣の女子が見逃さなかった。
    「Aさん、歯に残っているゼリーを味わっている」。
    恐るべきは、彼の執念だ。

    神様からの忠告は、当分彼の人生には届かないようである。

    そんな話を、私は、友人から聴かされた。

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