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親父たちよ

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  • from: クマドンさん

    2018年03月25日 07時28分10秒

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    彼の物語。私の物語。

    彼は、貧しい仕立て屋の一人息子。
    ある上流階級のお屋敷に父が仕立ての仕事に行くとき、
    彼も共に行って手伝っていた。
    その家の一人娘のことが大好きだ。
    しかし、その娘とのことである日、
    屈辱的にその父親から殴られた。
    貧乏人は、しょせん貧乏人。

    彼の父が死に、天涯孤独となった彼。
    まだ少年の彼は、盗みをした。
    そこでもしこたま殴られた。
    そんなどん底を生きる彼に優しくしてくれたのは、
    顔と身体に障害のある人だった。
    その人は、彼に一個のリンゴを手渡してくれた。

    彼は、働くことにした。
    鉄道の仕事だった。
    そして、成人した彼は、彼女を迎えにあの家に行った。
    父は、彼を軽蔑している。
    しかし、彼女はトランク一つで、このお屋敷を出て行った。
    彼との本当にその日暮らしの生活が始まった。
    二人の可愛い女の子に恵まれた。
    何もいらない。
    ここで、こうして家族四人で暮らせるならば。
    幸せは、ここにある。

    ある日、彼の会社が倒産した。
    全員解雇だ。
    彼は、沈んだ貿易船の所有証明書をこっそりと手に入れた。
    彼には、ある目論見が在った。
    彼は、その天才的な想像力を膨らませて、
    一山当てることにした。
    それは、彼女をまだ幸せにしていないためだった。
    しかし、本当は、あの上流社会のお金持ちである父親を見下したいからだった。

    彼は、その船の所有証明書を担保に莫大な借金をした。
    そして、創ったのが、蝋人形館。
    しかし、全くの偽物、インチキだった。
    客は誰も来なかった。
    またまた、全財産を失ってしまう危機に立った彼は、
    娘の一言から一つのアイデアが閃いた。
    「そうだ、ユニークな人たちを集めて、ショー創ろう」だった。
    そして、ポスターを張り、自分で街中を歩きまわり、その人を探した。
    小人・髭女・全身入れ墨男・世界一の巨体男・ノルウェーの巨大男。
    世の中から差別され、蔑まされ、闇の中を生かされていた人たちだ。

    ショーは、大当たりした。
    インチキな見世物から始まったが、
    いつしかその人たちのタレントが輝き、
    素敵な素敵なショーになって行った。
    大衆には大うけで、サーカスは連日満員御礼の状態だった。
    新聞の批評家に酷評されても、
    その新聞を武器にして、自分の儲けとする商才も彼にはあった。
    飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことだ。

    彼には、まだまだ欲望が在った。
    それは、彼を殴ったあの父親たちが生きている上流階級に認められることだった。
    確かに、彼は偽物のインチキのペテン師かも知れない。
    でも、彼にブレーンが居てくれたら、
    きっとこのサーカスも、上流階級の人たちが認める一流になるはずだ。
    彼は、1人の若い脚本家に目を付けた。
    彼をスカウトする。
    酒場でのこの交渉のシーンは素晴らしかった。
    10パーセントで、手を打った。

    そして、益々ショーとしての魅力が高まり、興行収入もアップした。
    ここで、辞めればが、いつもの人生だった。
    彼は、まだまだと思っていた。
    彼が考え、夢である、あの上流階級の人たちに認められ、
    その仲間の一人としてまだ認知されていない。
    豪華なお屋敷に家族を住まわせ、贅沢な生活をして、
    妻の父親を見返す暮らしとなっても、
    ピーナッツは、しょせんピーナッツだ。
    氏素性は、変えられない。

    彼は、本物を探した。
    女王陛下に謁見したその場で、魅力的なデーバと出会った。
    彼女の歌を聴いたことがなかったが、その評判だけでコンサートを決めた。
    オペラ劇場。集まる人たちは上流階級の人たちばかり。
    それは、彼が夢にまで見ていた世界だった。
    もうすぐ、彼の夢は叶えられる。
    コンサートは大成功だった。ブラボーの嵐。喝采はいつまでも鳴りやまない。
    その夜のレセプションに、妻の父と母が来た。
    彼は、父に侮蔑の言葉を投げつけ、門前払いした。
    そして、デーバに会いたいとやって来た異形の人たちを、
    同じく部屋には入れなかった。

    閉ざされて、眼がくらんだのは、彼の心の方だった。
    彼は、そのデーバの魅力に夢中になった。まさに魅了された。
    何だか夢のような日々を送った。
    かの新聞の批評家さえ、本物の芸術と賛辞を送った。
    有頂天になってしまった彼は、とてもとても大事な何かを忘れてしまった。
    家族を残し、サーカスの仲間を忘れ、
    彼女のために、全米40か所のコンサートを企画した。
    このコンサートのために、全財産を賭けてまでも・・・・。
    彼は、自分自身を見失っていることに、彼は気付いていなかった。

    成功と名声とは、そんなに人を有頂天にさせるものだ。
    その時、勘違いが起こり、人は、最も大事にしなければならない何かを失う。
    彼の妻は、彼を深く深く愛している。
    だから、彼には忠告をし、思いとどまるように説得もする。
    でも、憑りつかれたように突っ走っている彼には、
    全く聴く耳はなかった。
    全てのことは、彼にとって、取り返しのつかない道に進んでいた。
    しかし、彼は、知らない。
    どんな末路が彼を待っているのかを。

    デーバは、いつしか彼に恋をした。
    彼にデーバは、自分を愛することを切に求めた。
    その瞬間、彼は、目覚めた。
    「私は、一体、何をしていたのだろう・・・」と。
    まさに、夢から覚めた。
    その瞬間、全てが分かった。
    彼は、自分にとって何が大事てあったかが、やっと分かった。
    本心に還った。
    しかし、そのことを知ったデーバは、彼に大きな罪を犯させた。
    彼女とのスキャンダルだった。

    サーカスの建物が放火によって全焼だった。
    彼は破産して、妻と子どもたちは、彼の元を去って行った。
    彼は、絶望した。
    つくづく、孤独を感じた。
    自分の無力を感じ、全てを失い、何一つ為せなかった半生を振り返った。
    酒浸りの日々となった。
    そのバーを、異形の仲間たちは訪れる。
    「あなたは、闇の中で生きていた私たちを光の中に連れだしてくれた」
    「こんな私たちに、生きる希望と喜びとを与えてくれた」
    「私たちは、あなたに心から感謝している」
    「だから、再び立ち直って、私たちと一緒にショーを再開して欲しい」

    彼は、人生の途中で、いつの間にか道を誤った。
    道に迷ってしまったことすら分からないまま、いい気になって生きていた。
    傲慢で、自己中心で、頑固で、富と名声だけを求めて、
    愚かな人になり下がっていた。
    それは、彼が憎しみを持って見上げて来た、あの上流階級の人たちと同じだった。
    彼は、彼の本心をすっかり忘れてしまっていたのだ。
    しかし、その本心に戻らせるためには、
    やっぱりクライシスが必要だった。

    全てを失うことからしか、人は本心に立ち帰ることはできない。
    そして、どん底に生きている自分自身を改めて発見した時、
    本当の意味での懺悔と後悔が生まれて来る。
    その深い深い罪により、人は、本当の孤独を知る。
    独りぼっちであることの痛みを知る。
    人生をやり直せないことの後悔を知る。
    そして、こんなに愚かなどうにもならない人として生きていたのだと知る。
    ほとほと自分自身が情けなく、嫌になり、
    悔いても悔やみきれない痛みに日々耐えられない自分自身を知る。
    「やっと分かる」

    しかし、その時なんだな、光が顕れるのは。
    真の闇には、必ず微かなる光が燈る。
    それを、人は「愛」と呼ぶ。
    彼が忘れて見捨てて来た人たちは、彼を忘れず見捨てなかった。
    彼が本心に立ち帰ることを、心から待ち望んでくれていた。
    今、自分たちがこうして喜びをもって生きられるのは、
    彼と出会えたおかげだった。
    「だから、もう一度、あなたと一緒にショーをやりたい」

    彼は、善き種を撒いて来た。
    彼は、自らは知らなかったとしても、善き道を選んで歩いて来た。
    その種は、どん底の彼に、収穫の時を告げた。
    「あなたが撒いた種です。今、こんなに実って、収穫を待ち望んでいます」と。
    希望とは、絶望の隣に在るもの。
    いや、絶望することが、希望なんだな。
    人は、一切合切を失わない限り、その本心には気づかない。還れない。
    だから、人生と言う物語には、伏線が在り、危機があり、絶望と喪失がある。
    そこからしか、人は、本来の人となる道はない。

    ヨブは、ヨブであって、もうかってのヨブにはあらず。
    彼は、彼であって、もうかっての彼にはあらず。
    私は、私であって、もうかっての私にはあらず。
    これは、私の物語だ。

    10パーセントの種が実った。
    彼は、もうここに建物を建てることをやめた。
    その発想が彼だった。
    街外れの港の近くの安い土地に、大テントを建てる。
    そこで、グレートなショーを再開しようと。
    そして、冒頭のシーンに戻る。
    満員のお客たちの喜びと感動に満ちた顔・顔・顔。
    そして、生き生きと演ずる異形の人たちは、まさに畏敬の人たちだった。

    彼は、その大成功を見届けて、若いパートナーに全権を委ねる。
    彼は、我が家と愛する家族の元に帰って行った。
    幸せになるために。

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