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  • from: クマドンさん

    2020年03月20日 05時44分58秒

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    さらぬ別れもあるものだ

    水曜日の夕方、メールが来た。
    「母の容態がよくない」との知らせだった。
    個室に入って、面会もできるようになった。
    会わせたい人がいたら、声をかけてくださいと言われたそうだ。

    私は、夕方北区の病院に駆け付けた。
    ちょうど駐車場で、お向かいのAさんと出会えた。
    そして、共に階段を昇って、病室に行った。

    ベッドの上で、眠るようだった。
    酸素吸入のマスクの中から、微かに息をする音が聴こえた。
    息をする度に上に向けた顎を小さく、動かす。
    母の時もそうだった。
    顎で呼吸する。
    でも、Aさんのお母さんは、しっかりとしていた。

    血圧が88と34だった。
    そして、酸素濃度が時々、80を割って、ブザーが鳴った。
    私は、お母さんの左手を握った。
    太く逞しい手だった。
    それが長年魚屋として働いて来た手だと思った。
    「がんばったね」「お疲れ様でした」

    頭の横のカセットから昔の歌謡曲が次々と流れた。
    Aさんのお母さんに対する気持ちだった。
    歌が好きだったから、その歌を聴かせてあげたい。
    Aさんはもそのお母さんの手を取って、ずっと語りかけていた。

    私は、父や母や叔母の最期を看取って確信したことは、
    その最期の時まで、私たちの声は聴こえているという事実だった。
    理解をしているかではなく、
    私たちの話は、聴こえているということだ。
    だから、話す。昔の話を。楽しい思い出を。

    5時過ぎに私は、帰ることにした。
    お母さんのこの体力ならここ数日は大丈夫だと思った。
    Aさんも、そのことを思い、覚悟は決めていたことと思う。
    でも、「まだ大丈夫だ」と、彼女も思った。
    「何かあったら、電話しますね」

    そして、夜、電話が鳴った。
    「9時9分。あっという間でした」と、やっとの声だ。
    「これからセレモニーの人に電話して、迎えに来てもらいます」
    「自宅に帰った時、手伝ってもらえますか」
    私は、支度して、Aさんとお母さんの帰りを待った。

    病室で何が行われているか、想像できた。
    最後の支度をする。看護師さんには、本当に頭が下がる。
    お母さんはご遺体として、丁重に心を込めて身体を清められる。
    病室の私物は、全て家族に渡される。
    もう、この病室に二度と戻ることはないからだ。

    11時過ぎにワゴン車が自宅前に到着した。
    長男を呼んだ。
    ベッドの丸い枠の前を、私と長男で握った。
    後ろはセレモニーのベテラン男性職員が持った。
    時節柄、マスク姿は仕方ない。

    座敷に眠った。
    本当に安らかな、今にも寝息が聴こえるような穏やかな顔だった。
    何だかね。懸命に生きた人たちの最期は、やっぱりこんなにも穏やかなんだな。
    「帰って来たね。ほっとしたよ」と、言っているようだった。
    みんなでお母さんのその寝顔を見つめた。
    悲しみというよりか、安堵というか、安らかさというかだった。

    血圧が下がってからは、アッと言う間だったそうだ。
    「待って」と、叫んでも、すーっと数値が下がりゼロになった。
    あっけないが、確かに、見事な往生だった。
    苦しまなかったことが何よりもの救いだった。

    いつも思う。
    亡骸がここにある。
    しかし、あのお母さんは、この身体には既に住んではいないのだと。
    身体を置いて行った。身体から解き放たれた。身体から自由になった。
    「よっこらせ。ああ、楽になったもんだね」と、笑顔が見える。
    いつものように飄々と冗談を言って人を笑わしているお母さんだ。

    「ここに、いるよ」と、Aさんと、座敷を見回した。
    「見てるんだよ」と、その存在を感じた。
    今頃、あの頃のように父と母と叔母と、楽しそうにお茶を飲んで話してるはず。
    何だか、それも羨ましく感じた。

    「いつか、私も・・・・。」
    何だか一層、向こうの世界が懐かしくなった。

    2020年3月18日 午後9時  ご冥福を心から祈ります。

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