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  • from: クマドンさん

    2014年10月14日 05時51分37秒

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    あるオペラ歌手の物語

    寂しくて、寂しくて、夢を見ていたらしく、目が覚めた。
    目が覚めても、ずっと寂しさは変わらなかった。
    台風が東北に抜けたようだ。
    まだまだ風の強い、暗い朝だ。

    誰とも繋がっていない。
    どうしてこんなことになってしまったのか。
    自分は独りなんだ。
    そして、この状況はずっとずっと続くんだ。
    ふと、そんなことを想ったとたんに、言いようのない寂しさだった。

    あるオペラ歌手の話だ。
    彼は、若くしてその神から与えられた天与の才能に目覚め、
    素晴らしい歌声のテノール歌手として世界中の注目を集めていた。
    しかし、彼は韓国人。
    アジアから、オペラを歌える歌手が出るわけがない。
    そんな逆風と嫉妬とバッシングの中で、実力でどんどんと名声を獲得していった。
    「我こそは選ばれし者」とばかりに、自信たっぷりに、時には傲慢に進んで行った。

    彼を一人の日本人のエージェントが認めた。
    ヨーロッパを制覇する夢をもつ彼を、
    日本でコンサートを開くチャンスが与えられた。
    彼は、心からオペラを愛する人で、
    前の会社は、儲け主義の魂のない会社だと、辞めて新しい会社を創った男だ。
    その二人が出会って、友となった。

    ある日、稽古中にオペラ歌手は声を出せなくなってしまった。
    検査したら、喉頭癌だった。
    早期発見のため、簡単な手術で完治する程度の癌だった。
    ただし、声帯も傷つき、元のようには歌えなくなってしまう。
    歌かいのちか。
    彼は、生きる道を選択した。

    声を失った彼は、契約を破棄され、まさに路頭に迷う生活となった。
    贅沢な暮らしから、一変して韓国に還り、アパートでの暮らしになった。
    飲めない酒を飲み、自分自身の運命を呪い、いらだち、哀しみ、
    そして、自分が喝采を浴びている映像を観て、死んで、生きていた。

    全てを失った彼には、希望など見えないもので。
    人は去り、友もなく、妻だけは献身的な愛で彼を包むが、
    その愛に対しても、彼は素直に応え、安らぐことはできなかった。
    「歌いたい。」「あの声で、あのオペラを。」
    そんな無駄で、あり得ない過去の夢ばかり追いかけ、
    ただ嘆き、呻き、孤独のどん底に堕ちるばかりだった。

    しかし、日本人のエージェントである幸司は諦めなかった。
    声帯手術の世界的な権威である日本人の博士に日参し、
    とにかく手術をしましょうということとなった。
    見捨てられていなかった。彼のことを想い、奔走している人がいてくれた。
    彼は、独りではなかった。いや、独りには絶対にならなかった。
    そのことを彼は、自分の運命の過酷さだけを憎み、見えなくなっていたんだ。

    絶望のどん底にある人は、過去を想い、またあの幸福に戻りたいと切に想う。
    そして、自分にはまったく喜びに輝く明日などないのだと想い、
    自分を否定して、自分に怒り、希望を抱かず、ただ生きる。
    それは、生きるのではなく、ただ息をしているだけな状態だった。
    彼は、今も耐えがたく、今の時間すら意味がなく、
    すぐにでも消え去ってしまいたい、今でもあった。

    そんな時は、どんな愛も、手助けも、優しさも、労りも、拒むものだ。
    ほっといてくれ。そんなことで何が変わるんだ。俺はもう駄目なんだ。

    さてさて、手術は見事に成功はした。
    彼は会話するため程度の声は取り戻せた。
    そして、彼は、再び歌うための稽古を妻と二人で開始した。
    100年後のコンサートのために。
    そのコンサートで100年間の自分を聴かせるために。

    ただ、声が続かず、かすれてしまうことがある。
    おかしいと想い診察を受けたら、横隔膜が損傷して、
    片肺が機能していないことが分かった。
    息が続かないテノール歌手。
    かすかな希望によって再開した稽古だった。
    彼は、また絶望のどん底に追いやられた。

    幸司は、彼の復帰のためにあるコンサートの最後に、
    ささやかな彼のステージを用意した。
    しかし、既に彼は歌えない自分を許せず、歌えない自分を嘆き、恥じていた。
    コンサートが開始された。しかし、コンサート会場の楽屋には彼はいなかった。
    彼は、雨の中夜の街をさまよい歩いていた。

    さて、この結末は・・・・。

    「アメージング・グレース」という讃美歌がある。

    どんなに道を踏み外し、罪をおかし、どん底で惨めな生活をしていようと、
    こんなに寂しくて、孤独な私を、
    あなたは決して見捨てずに、大いなる愛で私を包んでくれていた。
    その愛をこのどん底で知りました。

    つくづくいい歌だと、涙が止まらなくなってしまった。
    寂しさの涙もある。
    しかし、この溢れる涙は、いったいどんな涙なんだろう。
    愛があるから、人は生かされるんだ。

    「ザ・テノール」という映画の物語だ。

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