サークルで活動するには参加が必要です。
「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
※参加を制限しているサークルもあります。
-
from: クマドンさん
2019/10/05 06:42:28
icon
遅れて咲いた彼岸花たちの言葉とは
昨日、薬が切れたので、医者に行った。
たった2分間の診察だった。
血圧を測り、「すすですね」と褒められた。
久しぶりに褒められて、何だか心くすぐられ喜ぶ私。
身体のことは、身体がちゃんとやってくれる。
そのちゃんとに不具合が起き、
ちゃんとに不都合が起きる時、
私が身体を弱らせ、衰えさせている時だった。
血圧は、私の意志ではなく、私を超えてその数値を主張している。
せっちゃんの施設に行った。
受付で担当の介護士の男性に呼び止められた。
「今、熱が37度二分あります。ずっと下がりません。」
「今日から看取りに入ります。」
「食事は、今日は、三割でした。」
私は、「いつでも携帯に連絡をしてください」と、お願いをした。
個室の奥の窓側に、ポツンとベットが据えられている。
せっちゃんは、手を胸で組んで、仰向けのまま、眠っている。
少し目を開けているので、曇った瞳は見えるのだが、
その瞳が、私のことを感ずることはもうないだろうの、弱い輝き。
一昨日行ったら、「くまちゃん」と、私の名前を呼んでくれた。
それだけだった。
あとは、しっかりと黙った。
ちょうど夕食の時だった。
担当の40代位の男性の介護士さんが、
とても優しく言葉をかけながら、スプーンでプリンを食べさせてくれた。
しかし、口を開けるまでが大変なんだ。
「あーん、だよ」「ごっくん、だよ」と、
まるで幼児に語り掛けるように、私もベッドの脇でせっちゃんに呼びかけた。
「食べませんね。」
「そうですね。無理しなくていいですよ。」
「明日の朝、お腹が空いて食べてくれるかもしれませんね。」
介護士さんは、せっちゃんの名を呼んで、
「ありがとう」と言って、お盆をもって部屋を出た。
そのせっちゃんが、昨日は別人のように一変していた。
反応は、何も無かった。
ただ、呼吸を繰り返すだけのせっちゃんだった。
人は、最期は呼吸なんだな。
今、私は、せっちゃんに「頑張って」とは、言わない。
「がんばったね」とは、言う。
「もっと生きよう」とも言わない。
本当に生きることの苦しみは、もう十分なんだ。
「せっちゃんは、幸せだったね」と、言う。
「せっちゃん、ありがとうね」と、言う。
骨だけになったその手を撫でる。指を撫でる。胸を撫でる。肩を撫でる。
せっちゃんの息に、私の息を合わせる。
まだ早くも無く、遅くも無い。
口蓋で苦しそうな呼吸も無く、吐く息が長すぎることも無い。
私は、父や母や叔母たちを看取りした。
だから、その呼吸の仕方で、最期がどこまで近づいているかは察知できる。
父や母は、先に逝っている。
せっちゃんの順番、逝く時は、確かに近づいていた。
そんなせっちゃんを見て、誰と今会って話をしているのかと、ふと感じた。
せっちゃんの母であるハルさんだろうか。
それとも、私の父と母であろうか。
意識の無いまま、ただ只管呼吸だけするせっちゃんを見ながら、
そのせっちゃんの話が聴きたくなった。
せっちゃんは、向こうとこっちとを繋ぐ窓だ。
私は、そのせっちゃんを通して、向こうの父や母と対話できるような気がした。
今、心深くで祈っている言葉は、
その向こうに逝こうとするするせっちゃんに対してであり、
亡くなった大婆ちゃんのハルさんであったり、父であったり、母であったりする。
せっちゃんのベッドの横で、座りながら、せっちゃんを見る。
これは、ハルさんとの時も、父の時も、母の時も同じだった。
みんなそうして次第に吸う息が短くなり、吐く息が長くなる。
そして、その息が止まって、暫くして、また思い出したようにすーっと息を吸う。
そして、最期の一息をして、命を終える。
これは、人としての偉大な教えだった。
こうして人として生まれた。そしたら、最期の一息まで人として生き切ること。
そして、天に召される。
それだけであっていい。
こうしてその生涯を全うする、それだけが、
人としてこの世に生まれて来た私たちの、大事な仕事なんだな。
最期は、神様が救って下さる。
抱きかかえ、天に昇って下さる。
それは、神様の私たちへの約束なんだ。
私たちの約束は、それでき一体何だろうか。
それは、きっと、「善く、生き切る」これではないかと、死者が教える。
ハルさんも、父も、母も、叔母たちも、そう言って旅立った。
せっちゃんは、幸せな人生だったと、私は、思う。
確かに生涯独身で、夫も子どもも持たなかった。
小さな鉄工所で埃や油にまみれた作業服の日々だった。
歌が大好きで、親戚が集まると美空ひばりをリクエストされる。
とにかく歌声が素晴らしかったな。
慎ましい生活で、贅沢は一切しない。
そして、少しの年金をこつこつと貯め、
私にも、長男にも、次男にも、お小遣いをくれていた。
今、我が家の彼岸花が満開だ。
いつもの年なら、必ずお彼岸咲いたこの花だった。
ところが、今年だけは、お彼岸から2週間も遅れて咲いた。
どうしたのかと、心配になったが、今、その意味がやっと分かった。
せっちゃんなんだな。
せっちゃんの旅立ちを、華で飾りたいという、父と母との願いなんだ。
花は、その父と母とのせっちゃんへの想いで、
赤く可憐に咲いてくれた。
「せっちゃん、ありがとう。お疲れ様。がんばったね。」
「これからは、ゆっくり休めるよ。」
これは、彼岸花たちのせっちゃんに贈る言葉だ。-
サークルで活動するには参加が必要です。
「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
※参加を制限しているサークルもあります。 - 0
-
サークルで活動するには参加が必要です。
「サークルに参加する」ボタンをクリックしてください。
※参加を制限しているサークルもあります。 - 0
icon拍手者リスト
-
コメント: 全0件