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  • from: クマドンさん

    2020年04月24日 06時47分35秒

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    ピアノの調律・魂の調律

    昨日は、ピアノの調律の日だった。
    KAIZERという名のピアノだ。
    このピアノは、母が小学2年生の妹の為に買ったピアノだ。
    つまり、今から50年以上前のしろものだ。
    あの頃は、日本中が貧しい家庭だった。
    我が家は、1つ屋根の下に二家族が同居だった。
    玄関とトイレは共同。風呂は無し。

    部屋は玄関から入った4畳半と隣の6畳だけの部屋。
    そこで家族4人が布団を二組敷いてみんなで眠った。
    そうだよなぁ。あの父と母と一緒に布団に入っていた時代は、
    今と違って、親の体温が感じられる時だったなぁと、今は懐かしい。
    その部屋に、ある日、このピアノが届いたのだ。
    母は、子どもの為にはこんな高価な買い物もしてくれる人だった。

    しかし、このピアノのおかげで、6畳は手狭になった。
    今、想うと不思議なことだが、
    あの天井をネズミたちが走り回っているあばら家に、
    このピアノの黒がピカピカと光っていたな。

    この母の贈り物を、この二階の私の部屋に置いた。
    この家を新築する時、窓からクレーンで運び入れたピアノだ。
    想えばこのピアノにまつわる物語もいろいろとあった。
    そのことは、いつかまた書きたいと思う。

    どうして、調律を思い立ったのか。
    それは、この母の遺したピアノにまた命を吹き込みたかったからだ。
    私は、昔知り合いになった楽器店に電話して、お願いをした。
    そして、昨日、とうとう調律するために、Jさんが来てくれたのだ。

    「羊と鋼の森」という映画を観てから、調律師の仕事に興味をもった。
    実は、この題名がピアノそのものだっんだの驚きだった。
    そして、その音はどのようにして決められるのか、興味津々だった。
    私はお願いして、その仕事ぶりを間近で見つめた。

    中心の「ラ」の音から、音を決める。
    それは、オーケストラの時と同じだった。
    「ラ」とは、音としての小数点以下が存在しない。
    ぴしっと割り切れる。明確に聴きとれる音だそうだ。

    次に平均律で音とりをしていく。
    一音一音で決めるのかと想ったら、五度・三度と、半音の響きだった。
    そして、ピアノはポンと瞬間に出した音と響いて行く音とが微妙に違う。
    その音と音との響き・重なり。それを気持ちよく調整するのだと教えてくれた。

    低音は、太い一本の弦だ。それがだんだん細くなっていくと音が高くなる。
    それではもっと高い音はというと減の色が変わり、針金の色となる。
    何と一つの音に細い弦が三本並べて設定されていた。
    その三本は、同じ音の高さを出すための三本だった。
    一本でもと思ったが、「ああ」と合点が行った。
    細い一本では音が響かず、切れやすいのだ。

    三本の真ん中の弦の音を決める。
    それから数ミリ離れた隣同士の弦の音を決める。
    そのためにピアノの上段には弦を止めるピンが在る。
    何とこのピンは絶対に緩まないように六条の溝が刻まれているそうだ。
    それを特殊なナットで微妙に調整して音を合わす。

    問題は、音を正確に決めることではなく、
    そのピアノを弾く人に納得し、満足してもらえる音にすることだった。
    特に、ピアノは単音で慣らすことより、和音の響きが大切だった。
    その響き具合を調整し、オーダーにどれだけ応えられるかが職人の腕だった。
    メーカーによってその響きが違う。
    また、同じメーカーによっても一台一台ピアノには個性が在る。
    だから、初めて出会うピアノには、とても緊張すると言っていた。
    ます、そのピアノを知ることが始めねばならないからだ。

    次に、ここから大事な技術なのだが、
    思い通りにピアノがリスポンスしてくれないことが多い。
    その時、やはり「迷い」が出るそうだ。
    全体のバランスとハーモニーを求めるために、
    一音を調整し直すと、また全部の音をやり直さねばならない。
    また、30年間も調律していないピアノは、また暫くすると緩むので、
    一度の調律に2度巻き直す必要があるそうだ。
    そして、ゆるみを想定して、微妙な調整を施す必要がある。
    だから、いつでも真剣にピアノとの対話だった。

    「絶対音感」と「相対音感」の違いも教えてもらった。
    絶対音感は、一つの音を聴くだけで、その音を決められる人のこと。
    相対音感は、二つの音の高さの幅で、基準ではないもう一つの音を決められる人。
    調律師の人たちは、その相対音感を徹底的に鍛え上げるそうだ。
    だから、いつも二音・三音と音を響かせて調律していた。

    さてさて、面白すぎる話ばかりで、実は、
    たくさんのことを学ばせてもらった。
    ヤマハは、山葉さんが100年前に静岡で、
    最初の国産ピアノを創ったからヤマハなのだそうだ。
    その工場の職人の1人であった河井さんが独立したからカワイなんだそうだ。
    もう1つ日本にはレアなピアノメーカーがあるそうだが、名前を忘れた。

    そして、実にピアノは精密機械・幾何学の世界であることもよく分かった。
    全ての角度・厚さ・幅・材質・長さ・重さと、
    経験から最も優れた値を発見され、精巧に作られている作品であることだった。
    「このピアノは、いい状態ですね」
    「当時では、このピアノはとても高価だったと思います」
    何だか母を褒められているようで嬉しかったな。
    「お母ちゃん、いかったね」

    さてさて、お仕事が終了してから、コーヒーを飲みながら職人の話になった。
    どうやって音を決めて、仕上げとするかだ。
    音の響き・固さ・強さ・弱さは、はかり知れない深さだと思う。
    そこにお互いの和音や響きの味わいを加えれば、
    その組み合わせはまさに無限にそれは存在するだと私は思った。
    では、どうして「ここ」に決めたのかの「問い」だった。

    「それは、説明できませんね」
    「昨年は私はとても迷って、スランプになっていました」
    「だから、ピアノに向き合うことが怖くも感じました」
    「自分でこのピアノを仕上げられるのか」
    「実際に一つのピアノの調律に混乱し、翌日また来ますということもありました」
    「でも、今年は、何だか自然と、すっと決まります」
    「迷わなくなったと言うよりか、考えなくなったのかも知れません」
    「あっ、これだは、これまでの経験と身体が決めてくれるようです」
    「その気持ちよい瞬間を、これだと決めます」
    「だから、迷い苦しむことが多い仕事ですが、楽しいですね」

    何とも哲学的で、とてもとても深い話だった。
    どんな仕事においても職人と呼ばれる人には、これがある。
    つまり、身体で覚える。説明できない。気持ちよい瞬間で決める。だな。
    その時は、こっちで「ああしてやろう」「こうしてやろう」とは考えていない。
    素材や個性はそれぞれだからだ。
    だから、まず聴く。素直に従う。やりながら反応を確かめる。
    「よし、これでいい」は、身体がちゃんと言ってくれる。
    そんな身体になるまでは、徹底的に修業・修業だ。
    その時、失敗が一番の技の糧となる。失敗は、職人の宝だ。
    だから、この仕事に「これでいい」の終わりはない。
    いつでも「途上」だ。だから一流の職人の技は、神の技なんだな。

    「あの小澤征爾さんが、まだまだ勉強だと言っていました」と、彼が言った。
    実は、彼はまだ30代半ばの好青年だ。
    「これから、これから、この道、始まったばかりだな」と、私。
    いつかまた、彼にこのピアノの調律を頼もうと思った。
    彼も言っていた。
    「調律は、その調律師を見て、信頼できる人にしてもらうことです」と。
    最後は、どんな一流の職人でも、人間が駄目なら、駄目な職人なんだ。

    さてさて、調律の代金の他に、講義の代金を支払わねばならないようだ。

    ピアノの音が蘇った。
    命が蘇ると言うことは、こういうことなんだ。
    ポンと鍵盤を押すと、音の響きが温かたった。
    この温もりは、母の温もりであり、彼の魂の温もりだと、
    何だかとてもとても嬉しくなってしまった私だった。

    今日から巣ごもりの生活の中に、ピアノの稽古が加わったる
    まぁ、全てのことを益にすることだなぁ。

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