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from: クマドンさん
2020/05/15 06:29:17
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無聲呼人
「無聲呼人」だな。
声無き声が人を呼ぶ。
私は、その声に呼ばれていつも庭で遊ぶ、仕事する。
今も、雀たちが鳴きながら飛んでいる。
このチチチチチチという忙しない声は、
餌をねだっている声である。
ああ、朝が早く生ればなるほど、
この声は早く聴こえる。
今は、5時半には呼んでいる。
花たちに水をやる時もそうだった。
元気の無い花がある。
項垂れて、葉っぱに精気が無い花だ。
何か生きることに困っている。
だから、水をたっぷりとやる。
肥料を根の近くの土に入れる。
終った花を鋏で切って取り除く。
ああ、あの樹は、葉が茂り過ぎだなぁ。
あれではやばしく、気持ちよくはないだろう。
それでは、やるかと、脚立を準備する。
高枝鋏と剪定鋏を用意する。
昨日は、裏の塀と自宅の壁との間の狭い場所だ。
何とそこには、風呂場の窓から出入りする。
この前を通る度に気になっていた樹だ。
刈ってくださいと、私のことをその度に呼んでいた。
そうだなぁ。やらないとなぁ。
そう想いながらも表の庭が優先だった。
ある程度、この庭の樹たちが落ち着いた。
気持ちよさそうに新緑を芽吹かせ、風に揺れている。
そろそろだなぁと、その樹に向かった。
これがこれでなかなか手強い樹だった。
びっしりと枝と枝とが重なり合って、茂っている。
おかげで高い枝の様子が見えない。
だから、下の枝からせっせと刈る。刈る。刈る。
とにかく枝を掃う。するとその上の枝が見える。
そこを刈る。ここは刈らない。
そのことを枝たちが教えてくれる。
本当に何も知らない素人の仕事だ。
そのセオリーも知識も方法も学んだことは無く、何も知らない。
それなのに、数年前から手を出して、やってきた。
すると、それなりに恰好がつく。
そして、その枝たちの声が聴こえるようになった気がする。
終ると、さっぱりしている。
葉っぱの輝きが違って見える。
葉っぱが喜んでいるような気さえする。
さてさて、そこには、コデマリと赤い花をつけた棘のある低樹があった。
どうして父がこんな誰も来ないトイレの脇の片隅に、
この二本を植えたのか、その気持ちが分からない。
可哀想ではないかと、いつも想っていた。
年に二回だけ、この低樹を剪定する。
会うのは、その時だけ。
ここで生きていても、ここで花を咲かせていても、誰も見ない。
見ないと言うことは褒められず、愛されずだな。
そこで、この二本に訊いた。
「ここで、いいかい。」
「それても、表の庭に行くかい」と。
「やっぱりここじゃ、寂しいよなぁ」
しかし、しっかりと根を張ったこの二本を移植することは至難の業だ。
「痛いかもしれないが、それでも行くか?」
樹は黙っているが、その声は聴こえる。
「そうだよな。やってみるか」と、今日の私の仕事はそれだった。
庭に居て、自然の命を相手にしていると、
確かに向こうから私のことを呼んでくれる。
萎れた花があったら、次に咲く花の小さな芽のために刈り取ってやる。
倒れて土の上に寝ている苗があったら、添え木をしてやる。
密集して茂り過ぎたマームには、剪定をしてすっきりとする。
庭を観ていると、そうやって「こっちだよ」と、花や野菜や樹木が呼ぶ。
その声を、私は聴けるようになったようだ。
声無き声は満ちている。
光りの声。
風の声。
雲の声。
空の声。
そして、この社会の中にも、その声は聴こえているはずだ。
虐待を受けている子どもの声。
親から愛されない子どもの声。
親から捨てられた子どもの声。
誰にも知られず片隅で生きている子どもの声。
今朝のラジオで児童文学者の中島信子さんが語っていた。
「今の貧困は、見えない貧困ではなく、見せない貧困」なのだそうだ。
貧困を見せると、子どもはいじめに合う。嫌なことを言われる。
だから、学校では貧困を見せられない。
「お前は、給食で生きているんだろう」と、言われる子ども。
その給食が無くなる夏休みや冬休みが切ないそうだ。
そして、今は、コロナウイルスだ。
どれだけお腹を空かして、飢えを感じて、生きている子どもがいることか。
17歳以下の7人に1人が貧困家庭の子どもだと言う。
本当は、もっともっと食べられない、
飢えを感じている子どもが増えているはずだ。
その子どもたちの心の声をみんなに聴いてもらいたくて、
彼女は「八月の光」という物語を20年ぶりに昨年発表したそうだ。
病に伏せる母親と5年生の少女と2年生の男の子。
学校では、よく「貧乏。貧乏」とからかわれる子どもたちだ。
私は、まだ読んでいない。
だから、読みたいと想う。
声無き声を聴く。
今は、子どもたちの声を聴かねばならない時代のようだ。
「こんなにも豊かな世の中で、
何万円もするお説料理が棄てられているこの国で、
クリスマスもお正月も知らず、楽しめない子どもたちが居ます。」
中島さんの言葉だ。
「無聲呼人」
呼ばれているのは、私なんだな。-
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